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アディショナル・タイム(鬼道/アレス)

「うぅっ…折角名前先輩が来てくれたのに情報収集なんて…」
「大事な仕事だよ、春ちゃん。頑張って」
「分かってます…!でも名前先輩が星章に居るの、期間限定じゃないですかぁ〜!久々にお話したいのに!」
「私もだよ。だから期間内に頑張って書類片付けるね。最終日の練習後にお茶しよ?」
「ホントですか!?約束ですよ!」


***


渋る春奈が情報収集に他校へ行った後、名前は会議室の一角を借りて書類整理を黙々とこなす。

星章学園にマネージャーとして派遣されている春奈と違い、名前は色んな所の手伝いをして回っていて、今回お呼びがかかったのが星章。春奈の手が回らない書類仕事を片付けに来たのだ。


「(強くなると申請するものも多くて大変…)」


自分たちのフットボールフロンティア優勝後に導入されたスポンサー制度。
これが絡むと必要になってくる紙が一気に増える。

学校への部費計上だけに止まらず、試合に出る前に流すCMを会場に申請し、選手の加入・脱退にプレカ管理が必要で…等々。人気のある強豪校はマネージャーの忙しさが別格なのだ。

色々溜めこんでいるであろう春奈とのお茶は、荒れ模様の予感である。


「(でもさすが鬼道君だなぁ、星章学園とか『賢い学校』くらいしか知らなかったし)」


星章学園が急激に力を付けたのは同級生・鬼道の力が大きいと言っても過言ではない。
雷門から散り散りになったメンバーは全員大切に思っているが、特に懇意にしていた鬼道や春奈と会えると分かった時は嬉しかった。


「元気かな…。練習見に行きたい…―――いやいや、ダメだよね。集中しないと」


会いたいとイコールな気持ちを何とか振り切って、名前は作業に集中した。


***


「(…思ったより早く終わりそう)」


陽が少し傾いてくる頃、その日のノルマは達成出来た。

他校に手伝いに行き回っているせいか作業スピードが上がっているようだ。選手志望の身としては複雑な心境だが、誰かの為になるならまぁいいか、と再度書類に手を伸ばした時「コンコン」と上品に扉がノックされた。

誰かと思って返事をすると、返ってきたのは少し懐かしい声。


「入るぞ」
「鬼道君!?」
「久しぶりだな、名字」


練習後なのかユニフォーム姿の鬼道。何かあったのだろうかと見ていると、それを察したのか少し笑って「手伝いに来てくれている奴の顔くらい、見に来るだろう」と言った。
気にかけてくれているのが分かって、それだけで何だか嬉しくなってしまう。


「わざわざありがと〜。それは嬉しいけど…練習大丈夫?」
「あらかた終わった。そこまで自主性のない奴らなら初めから鍛えようとは思わん」
「それなら良いけど。ピッチの絶対指導者だっけ…相変わらず凄い異名だねぇ」


久しぶりに会えて嬉しい気持ちから、会話が弾む。鬼道もいつの間にか、そこいらの椅子に腰かけた。今のチームはどうだ、学校生活はこうだと話のネタは尽きない。


「―――しかし、他校の仕事なのに手伝わせて済まないな、名字。
本来なら俺や春奈…最終的にはここの部員がやらないといけない事なんだが」
「ううん、良いんだよ。こういう事を引き受けて、部員の人にサッカーする時間作ってあげるのも強化委員の仕事だよ、多分」
「…、お前らしいな」


鬼道の口元がふっと緩む。つられて名前も笑った。その時丁度、学園のチャイムが鳴るとふと我に返ったように名字が呟いた。


「あ…、もうこんな時間かぁ。やっぱり雷門の人と話すの楽しいな、お仕事進まなくなっちゃうよ」
「お前なら少し話し込んだくらい、影響ないだろう」
「そんなこと無いよ…。皆、離れちゃったから―――ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ寂しくって。強化委員で行った先に雷門の皆がいたら…凄く浮ついた気持ちになっちゃうんだ」


だからしっかりしないと頼まれ事も終わらない。「駄目だよねぇ」と自分に呆れたように言う名前をゴーグルの下の瞳がじっと見つめる。


「…」
「春奈ちゃんともお茶の約束してるんだよ。だから余裕もって終わらせなきゃって思って…」
「何日間いるんだ?」
「ん?今日入れて3日〜。今日は授業終わってから来たけど、明日から土日で1日中できるから短めかな」
「そうか…」


一拍置いて「なら、残り2日も話しに来るとするか」と意地悪そうに鬼道が言う。


「え〜…、そんな事されたら期間内に終わらなくなっちゃうよ」
「期間外でも来たら良いだろう」


困ったように笑う名前との距離を縮め、すぐ隣に座る。


「ずっといれば良い」
「…?」


鬼道の真意を探るように名前の瞳が見開かれる。


「うーん、楽しそうだけど…3人も強化委員がいたら星章(ここ)の人窮屈じゃない?」
「そんな事は無い。お前ならきっと皆、好きになるさ。…雷門の皆と同じように」

いつも朗らかな名前は雷門の精神的支柱といっても過言ではなかった。
離れた先で一緒になったのなら、嬉しいのはきっと名前だけではない筈だ。
それは鬼道自身も例外ではない。

ただ、仲間以上の感情を名前に抱いているという点では他のメンバーと少し違っているのかもしれないが。

「他の奴らがどうするかは知らないが…お前が寂しいというのなら、俺は付け込ませてもらう」
「っ…」

顔を寄せると反射できゅっと瞳が閉じられる。頬にわざとちゅっと音を立てると、名前は驚いた様子で頬を真っ赤に染めていた。

雷門では暗黙の了解で停戦協定が結ばれていたが、別チームになった今それは瓦解している。

それなら、伝える言葉は決まっていた。


「―――好きだ、名前。お前は賢いから、どっちの意味かは分かるだろう?」
「っ、あの…、鬼道君、私…は…その…」
「今ここで答えを寄越せとは言わないさ」


最低2日、はかどらなければそれ以上。時間はあるのだから焦る必要はない。
「ゆっくりしていけば良い」というニュアンスを込めてそう言えば、名前が顔を覆って「…もう…、…本当に、仕事終わらなくなるよぉ…」と絞り出した。



「だから、それで良いと言ってるだろう」



指の隙間から覗く熱に浮かされた瞳を、鬼道は愛おし気に見つめたのだった…―――。













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押せ押せ鬼道君。+春奈ちゃんも大好きです。
友達以上恋人未満から抜け出すお話。でも両片思いぽく書きました。

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