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ある未完成な占いの結末(鬼道/無印)

今日は雷門の文化祭だ。
喫茶店をすることになった名前は朝から調理係として作ったメニューを売り切って今は自由時間。
折角なので色んな店を見て回っていると、ふと怪しげな一区画が目に入る。

「占いの部屋…」

人が集まっている気配はないが、一応パンフレットには載っている。見逃してしまう程小さくはあるのだが。

「(ちょっと面白そうかも?)すみませーん…」

紫のヴェール、というか幕を分けて中を覗くと、そこにいたのはなんと。

「えっ、鬼道君だ…!?」
「名字か…お前占いに興味あるのか?」
「いや、何となく面白そうで入っちゃって」

鬼道有人、同じサッカー部の仲間にして名前の想い人だった。
水晶を前に肘をついて腰かけているのが非常にその道の人っぽい。

『占いも出来るなんて本当に凄いね、鬼道君は』と感心したように言うと、苦笑と共に『俺には占いなんて出来ないぞ』という言葉が返ってきた。

「影野が昼食から戻ってくるまでの店番だ。たまたま通りがかりに捕まってしまってな…」
「それはお疲れ様です…」
「名字のクラスは喫茶店だったか。こんな時間にうろついているという事は、首尾は上々といった所か」
「材料なくなって作れなくなっちゃった。売り子さんたちが優秀なもので〜」
「そうか…行こうと思っていたんだが…名字の菓子は甘さが好みだからな」
「そう…?じゃあ、また部活に差し入れで持って行くよ」

好意を寄せている身として、そんな風に言ってくれるのはとても嬉しい。でも1人では何だか恥ずかしいのでマネージャー陣を誘って皆で作ろうとひっそりと計画を立てた。


「…それじゃあ、そろそろお暇するね」


部活や廊下で話している時は何ともないのに、何だかこの狭く薄暗いテントの中に2人っきりと言うのは緊張してしまう。
変にドキドキしているのを悟られて、妙な空気になるのも嫌だったので早々に離脱しようと試みた。


「―――名字」
「うん?」
「…影野が置いて行ったタロットがある。折角だから占っていくか?」



***



出来ないとは言っていたが、鬼道は土台から優秀なのでタロットなどやり方が系統だっているものを扱うのは訳なかったようだ。現在進行形で占ってもらっている。

「―――…これは『The world』の逆位置だな」
「wolrdって世界?その逆って事は…国家転覆みたいな?」
「お前クーデターでも起こす予定あるのか…?」


正位置の意味が肯定的だから、停滞、暗転、未完のまま終わると言った意味があるらしいと鬼道がタロットの取扱説明書を見て補足してくれる。


「テスト前に聞きたくなかった…赤点取ったら部活が」
「円堂ならともかく、名字なら大丈夫だろう」
「買い被りだよ…」
「駄目だったら教えてやるから、いつも通りやれば良い」
「…うん…、ありがとう!鬼道君がいれば心強いね」

こういう面倒見の良い所も惹かれてしまう。惚れた弱みも相まって、結局断れず占いもどきに興じてしまっている。楽しいのは間違いないが。


「さて。全体運、金運、健康運、勉強運…後は恋愛運くらいか?」
「そ、ソウダネ…」


それはわざと避けていたやつだ。本人を前にして恋占いなど、とんでもなかった。気恥ずかしさで爆発しそうである。しかし鬼道はさくさくタロットの準備を始めている。


「っあの、鬼道君。私、恋愛運はいいや…」
「? …嫌だったか、すまない。」
「い、嫌じゃ無いよ!ただ、自分の気持ちを大切にしたいというか…私単純だから、占いの結果でその人との関係ギクシャクしそうかなって」
「良い結果かもしれないのに?」
「うん。今は振り向いてもらえてないけど、占いのおかげでその人と良い関係になったんじゃなくて、その…私の気持ちが通じたんだなって思いたいっていうか…上手く言えなくてごめんね」
「―――…いや、大丈夫だ。分かる。…お前にそれほど想われている男は幸せだな」
「はっ!!!」


良い訳に必死で言外に「好きな人います」と明言していた事に気付かなかった。顔から火が出そうだ。


「忘れてくれると、とても嬉しいです…」
「物覚えが良すぎて自分でも困っている。…聞かなければ良かった…」
「贅沢な悩みだねぇ…え?」
「…」


黙りこくった鬼道を何か気に障ることを言ったのだろうかと、心配そうに見つめる名前。腕を組んだ彼はしばらく水晶を見つめ、意を決したように名前に顔を向ける。



「―――俺は占いは出来ないが透視は出来る」
「へ?う、うん…?凄いね、だから水晶見てたんだ」
「そうだ。…お前は例の想い人より俺と楽しげに笑っていたのが視えた」
「!?」
「だから名字。お前の好意に気付かない男なんかより、俺を選べ。何倍もお前を幸せにしてやる」
「え…っ!」


そっと名前の頬に手を添え、唇を親指でなぞった。

その行為で、準備しかけていたタロットがはらりと落ちる。
鬼道からは思い込みや誤解を意味する正位置の『月』、名前から見れば解決や辞退の好転を示す逆位置の『月』である。


「タロット占いに誘ったのだって、お前と少しでも話していたかったからだ。…誰にも見られていなければ、気兼ねなく本心で話せるだろう?」
「き、どう君…」


返事を聞かせてくれないか。

問うた鬼道で名前の視界はいっぱいで、今起こっている事が信じられない様子で固まったままだ。


…―――この未完成な占いの結末は2人だけが知っている。















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文化祭ネタ。長くなってしまった…。
その昔、鬼道さんが水晶を前に怪しく笑っている公式イラストがあってですね…!
凄く印象に残っております。


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