「ねえ、どっちがいいと思う?」


ひらりとスカートの裾を靡かせて二つのワンピースを臨也に見せる。どちらも可愛いけれど、二つ買うにはお財布に優しくないお値段だ。
どっち?と臨也に訊けば、面倒くさそうに目を細めると両手を軽く上げ肩をすぼめてみせた。はあ、とわざとらしく息を吐く。


「女が言う、ねえどっちいいと思う?ってのは大抵自分の中ではどっちが良いかなんて決まっていて、本当に意見を求めてるわけじゃない。要は背中を押してほしいだけ。男にとってなんて迷惑な話だろう。自分が決めた方と違う方を言えば機嫌を損ねるし、かと言ってもう一方を言えば、でもこっちもいいんだよねぇとかまた迷いだす。なんてスパイラル」
「それが私の真似だって言うんだったら臨也はモノマネとか一生やらない方がいいと思うよ」
「うるさいよ」
「で、どっちなの?早く」
「はぁ…こっち」
「えー!こっち!?」
「ほら、これだ。女のショッピングってこれだから…ああ、面倒くさい」


そんな言い方しなくてもいいじゃん。むすっと頬を膨らませれば、そんな顔しても可愛くないよ。なんて、嫌味しか言えないのかこの男は!
結局臨也に言われた方のワンピースを買ってしまうんだけれど。


「臨也何にも買ってないじゃん。何か欲しいものないの?」
「今これと言ってないねぇ」
「見たいものとか、お腹は?空いてない?」
「見たいものもないし、お腹も空いてないなぁ」
「……なんで臨也ショッピングモール来たの?」
「それ君が言う?」


付いて来いって言ったのは君の方なのにさあ。そもそも、俺は…とぶつぶつとまた小言マシーンのように私にぼやく臨也の話を右から左に流して、ショッピングモールを見渡す。
日曜だけあってショッピングモールは老若男女様々な人で溢れてる。


「もっとさ、ショッピングを楽しんだら?」
「楽しんでるさ。ショッピングモールなんて人間観察に最適な場所だからね」
「そうじゃなくて!私とのデートを楽しめ」
「さっきから俺と手を繋ぎたそうに右手をそわそわさせてるのを見てるのは随分と楽しいけどね」
「き、気付いて…っ!?」
「なまえは分かりやすいんだよ」


さっと私の手を取ると臨也は鼻歌なんて歌いながら私の前を歩き出した。気付いてたならもっと早く繋いでくれればいいのに。まあ、楽しんでるようだからいいか…。私は引かれるまま臨也の後を追った。

臨也は雑貨屋さんまで来ると、ご機嫌な様子でマグカップを手に取った。さっきは欲しいものはないとか言ってたのに、不思議に思い臨也を見つめると、「どっちがいい?」なんて二つのマグカップを私に見せた。


「なにそれ。また私の真似?」
「違うよ。単純にどっちがいいのか知りたいだけ」
「えー……じゃあ…こっち」
「ん、こっちね」
「それ買うの?」
「そ。こっちは君のね」
「え、私の?なんでまた…ちょっと臨也」


するりと引き止める私の手を躱すと、レジへと向かう。ちゃっちゃとお会計を済ませると、また私の手を取って歩き出す。


「ねえ、何でマグカップなんて買ったの?しかも二つも…」
「一つは俺の、もう一つはなまえの。ブランド物だとなまえすぐ壊しそうだしね」
「それはそうかもしれないけど」
「うちには来客用しか無かったし、丁度いい機会だと思ってね。俺とお揃いってこと。そういうの好きだろ?」
「す、きだけど……」


臨也はお揃いとか興味ないのかと思ってた。そう小さく呟くと、臨也は弧を描くようににやりと笑うと、「さて、コーヒー豆でも買いに行こうか」と私の手を引いた。



150222

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