「ついて来ないでってば」
「じゃあ、止まってよ沖田くん」
「やだね」
「ならずっとこのままだね」
「……」


そう言って笑えば、彼は心底不快そうに私の方を振り返り、眉を寄せてエメラルド色の瞳で私を見下ろすのだ。


「その顔、すき」
「ドMなんじゃないのキミ」
「ええ?どちらかと言えばSだと思うんだけど」
「じゃあ、僕とは合わないね」
「そう?ぴったりじゃない?」


にっこりと笑ってみせれば、彼はやれやれと肩を窄めてみせた。腕を組んで壁に寄りかかって私を見やる。ほんと、絵になるなぁ。


「君は本当に懲りないねぇ」
「ふふ、どうも」
「褒めてないんだけど」
「安心してよ沖田くん。今日で終わりだからさ」
「今日で、終わり…?」


そうだよ。今日で終わり。私だって、迷惑かけたと思ってるよ?毎日沖田くんのこと追いかけ回してたんだからさ。今思えばストーカー紛いな行為だったよね。ごめんごめん。まあ、それだけ私が沖田くんのこと好きだったってことだよ。楽しかったよ。沖田くんとおにごっこ。


「結局沖田くんのこと捕まえられなかったけど、まあ仕方ないよね」
「…」
「沖田くんの勝ちってことかな」
「ほんと、君って勝手だよね」
「え?」


その言葉に振り返れば、あまりの笑顔に2、3歩後ずさる。けれど、すぐにその間を詰めてきた沖田くんに私は困惑した。そんなのお構いなしに沖田くんはどんどん近づいてくる。ついに壁に押しやられて、所謂壁ドン状態になってしまった。


「散々僕を振り回した挙句、捕まえられなかったからってはい終わり?ふざけてるの?謝って済む問題じゃないよね?」
「ええっ?怒ってるの?だから、ごめんって」
「…君何にも分かってないよ。鈍感とかそういうの本当いらないから。馬鹿なの?馬鹿なんだね」
「んんん?何で私貶されてるの」


いきなり饒舌になった沖田くんに多少驚きつつ、抜け出そうと試みても沖田くんの腕がそれを許さなかった。顔近いし、恥ずかしいからやめてほしいのだけど。嬉しいけどさ。頬に熱が集まり、恥ずかしいのに、沖田くんから目を逸らせない。


「僕は結構このおにごっこが楽しかったわけだ」
「え、そうだったの」
「そうなの。毎日毎日飽きもせずに僕の教室に来るのを楽しみにしてたし、そんな君が少しだけ可愛いとかも思ってた」
「ええ!?は、初耳、なんですが…」
「そりゃあ、初めて言ったからね」


こんな至近距離で可愛いとか言われたら照れるんですけど。諦めようとしていた心がぐらりぐらりと揺れる。そんな私を見透かしたように沖田くんはくすりと笑った。心臓が早く脈打つ。


「そこで、だ。君はどうする?」
「…」
「本当にやめてしまうの?今日で終わり?」
「…」
「早く、僕を捕まえてみせなよ。なまえちゃん?」


そう笑った沖田のくんの顔は凄く意地悪で、私の大好きなそれだった。ずるい。本当に沖田くんはずるい人だ。
きっと私は明日もあなたを追いかける。



140621


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