電車に揺られながら、向かいの席の彼をちらりと盗み見る。今日も目を閉じ、腕を組んでイヤホンをつけている彼に私はドキドキしながら心の中でかっこいいと呟いた。

彼を初めて見かけたのは、朝寝坊していつもとは違う車両に飛び乗り、空いている席をキョロキョロと探している時だった。


一瞬で目を奪われた。窓から射し込む光で栗色の髪はキラキラとしていて、心臓が煩いくらいに跳ねた。

それからというものの、私はわざと時間をずらし、彼と同じ電車に乗っている。名前も学校も何も知らないけれど、見ているだけで幸せな気分になれた。彼は何時も寝ているみたいだから私のことなんて知らないのだろうけど、それでも別に構わなかった。


たった20分程度の時間の中で、私は彼の顔はどんなだろうとか、きっと美形なんだろうなとか、いつも何を聴いてるんだろうとか、声はどんな声をしてるのかなとか、たくさん想像して、幸せに浸った。


彼の顔を見て思わず頬が緩む。
やっぱりかっこいいなー、そう何時もみたく盗み見ている時だった。彼の目がすっと開かれてこちらと見た。目が合って、心臓が飛び跳ねて、やっぱり美形だとか、目おっきいんだなとか、考える間も無く、私は慌てて目を逸らした。


見ていたこと、ばれただろうか。いきなり起きるなんて、思ってもみなかった。下げた視線をそっと上げると、彼が立ち上がりこちらへ歩いてくるではないか。

えっ?えっ?プチパニック状態の私は動ける訳も無く、彼が目の前まで来たところで冷や汗が背中を伝った。
もしかして、見てたことを怒られるのではないだろうか。どうしようどうしよう。謝るべきかな。え、どうしよう。


「なぁ、アンタ」
「は、はぃぃ」
「名前、何て言うの…?」
「……え、名前、ですか……?」
「そ、名前」


何でそんなこと聞くんだろう。周りの乗客がちらりとこちらを見るのが分かって、恥ずかしくなり顔を伏せながら小さな小さな声で「みょうじなまえです…」と答えた。
ふぅんと呟いた彼はぐっと身を乗り出し、顔を近づけた。ち、近いし、恥ずかしい…!!


「俺ァ、沖田総悟」
「え?あ、沖田…さん…」
「総悟でいい。これ、アンタにやる」


彼が降りる駅のアナウンスが流れる。ぞろぞろと乗客も降りる準備を始めて、私は咄嗟に渡された紙を受け取った。そこにはメールアドレスにLINEのIDに電話番号が書かれていた。吃驚して彼の顔を見やると、にやりと彼は笑う。そんな顔もとても様になっていた。


「な、なんで…これ…」
「いっつも俺の事見てたから?」
「えっ!?気付いて…!?」
「あれだけ見られりゃあ誰でも分かりやす」


カァと自分の顔をが熱くなるのを感じた。なにこれ私ストーカーみたいじゃん。恥ずかし…。真っ赤に染まる頬を押さえているとプシューという音ともに扉が開いた。彼も動きだす。降りる直前に彼が振り返って笑った。



「連絡、待ってまさァ。なまえちゃん?」
「!」


彼の背中をただぼーっと見つめて扉が閉まるとそのまま顔を鞄に突っ伏した。急展開すぎてついて行けない。彼の笑った顔が頭から離れなくて、彼が降りたということは私の降りる駅が遠に過ぎていることとか、このままだと遅刻だとか、そんなこと頭からすっかり消えて、まずは何て彼に、総悟くんに送るのかで頭の中は一杯だった。



140529


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