「もしもね、赤司くんより強い人が現れたらどうする?」



唐突に彼女の口から出た質問は、彼女らしいとても突飛な内容だった。その質問に対して、あり得ないなと答えるともしもだよと彼女は微笑んだ。僕はどうやらこの笑顔に弱いらしい。困ったなと僕も彼女に微笑んだ。


「そうだな、もしも仮にそんな奴が現れたら…僕は初めて敗北を知ることになるんだろうね」
「その顔、絶対にあり得ないって思ってるでしょ〜」
「すべてに勝つ僕はすべて正しい、敗北などあってはならない」
「…赤司くんは敗北に興味は無いの?」
「僕は敗北を知らない。だから興味はあるさ。ただそれだけだ。それ以上のイミはないし、知りたいとも思わない」
「勝利こそがすべてではないよ」
「いや、すべてさ」
「赤司くんは知らないだけ。敗北の本当の意味を」
「本当の意味、それは確かに興味深いが、知る必要はない」
「赤司くんは人生を損してるよ」
「ははっ、君ぐらいだよ僕にそんなことを言うのは」


だからこそ魅了されるのだ。彼女の強気な瞳に僕は吸い込まれる。初めて彼女と出会った時からそうだった。彼女は強気な瞳で僕は捕らえ、はじめましてと微笑んだのだ。その時から僕は彼女の事が好きになっていたのかもしれない。



「……現れるといいね。赤司くんに敗北を教えてくれる人間が」
「ふふ、それは面白いね」
「そうすれば赤司くんは自由になれるのに」
「……どういう意味だい?」



そう尋ねても彼女は曖昧に微笑むだけだった。そのまま静かに立ち上がるとくるりと回って見せる。僕はそれをただジッと見つめるだけ。まるで、自分で考えろとでも言うように、僕はあまりいい気はしなかった。しかし、彼女のこういうところが僕を惹かせるのだろう。



「赤司くんは凄いよ。勉強だって、将棋だって、バスケだって、一番だもん。だけど、そのままじゃいつか赤司くんは潰れちゃうよ」
「それは変わった表現だね」
「赤司くんの背中にはたくさんの一番が乗ってる。私はそんな才能は無いし、一番だって胸はれるものもないから、それを軽くしてあげることはできない。悔しいけどね」
「………なまえ」
「だから、はやく現れるといいね…」


切なげに寄せられた眉に目尻に光る涙に僕はとても綺麗だと思った。
もしもそんな奴が現れたら僕は敗北を知り、すべてを否定されることになる。そんなことはあり得ないけれど、彼女がそう言うのなら僕もそんな小さな可能性を信じてみなくもない。



「もしも赤司くんが敗北を知り、絶望におそわれた時は私が隣で慰めてあげるよ」
「それはとても頼もしいね」


そう微笑めば彼女も嬉しそうに微笑んだ。



140427


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