だから及川さんとは関わりたくなかったんだ。
じんじんと痛む頬を押さえながらぽつりとそんな事を呟いた。今更後悔したって遅いのだ。



「なまえちゃん!?ちょ、その頬どうしたの!?」
「……分かってるくせに、白々しいですね及川さん」


ハッと鼻で笑えば、及川さんは楽しそうに口元を歪めた。何て憎たらしい笑顔なんだろう。今すぐその憎い顔に一発ぶん殴ってやりたいぐらいだ。

そんな及川さんに臆することなく、睨み付けると及川さんは首を傾げた。その姿がまた私を苛立たせる。


「どうして睨むのさ?俺はなーんにも悪いことなんてしてないよ?」
「…誰のせいで私がこんな目にあってると思ってるんですか」
「その君の痛々しい真っ赤な頬は、俺のファンの子たちがやっただけであって、俺が直接手を出したわけじゃない。違う?」
「直接手を出してないにしても!あなたが原因なのは事実です!早く私と「別れないよ」…っ……」


そうはっきりと告げた及川さんの射抜くような眼差しが私を強張らせた。いつもこうだ。どんなに私が酷い目に遭わされても、助けてくれなくて、それなのに絶対に別れてはくれない。

私の赤く腫れた頬に及川さんの手が重なった。ビリっとした痛みに顔を顰めると、及川さんは痛そうだねぇと呟いた。
あんな凄いサーブを打つ及川さんの手は少しゴツゴツしていて、けれどひんやりと冷たくて気持ちがいい。


「痛いに決まってるじゃないですか。本気で叩かれましたからね」
「そう。腫れてるもんね。でもね、俺は嬉しいよ」
「は…?」
「ねぇ、知ってる?君はさ、傷付けられると必ず俺のところへ来るんだよ」
「っ……!そ、そんなわけ…!」
「本当さ。君が傷ついた姿で俺の前に現れた時、君の泣き出しそうな顔を見ると、俺はね、たまらない気持ちになるんだよ」


私の頬を撫でながら微笑んだ及川さんに私は背筋が凍った。こんなの間違ってる。及川さんはおかしい。

後ずさった私の腕を及川さんが掴む。掴まれた腕がズキリと痛んだ。


「なまえちゃんがどんなに傷付けられて、俺から離れたがったとしても、絶対に離さないよ。離れてなんかやるもんか」
「……そんなの横暴ですよ」
「好きなんだよ。愛してるんだ」
「そんな、言葉聞き飽きました」
「それでも何度だって言うよ。愛してるよなまえちゃん」



どうしてそんな声で私の名前を呼ぶの。どうしてそんな顔をするの。やめて。
勘違いしてしまいそうになるから。どんなに痛い目にあっても許してしまいそうになるから。

貴方の手を振り払えない私は馬鹿ですか。




140923


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