「ねえ、まだ何か買うつもり?」
「え?うん。あとたこ焼きでしょ?わたあめにはし巻き、焼き鳥、あとは〜…」
「そんなに食べられるわけないデショ」
「食べられるもん………やっぱり半分こする?」
「はぁ。太るよ?」
「平均体重を保ってるので大丈夫です〜 」
「へぇ、その体型で?」
「ご心配どうもありがとう」


もぐもぐとかき氷を咀嚼する口を止めずに蛍くんの嫌味を跳ね除けた。大丈夫だもん。ちゃんと明日は食事制限するし。そう言えば蛍くんは鼻で笑った。くそう…自分は食べた分身長にいくからって。


「屋台で売ってるものってどうしてこうも美味しそうに見えるんだろ」
「別にいつも食べてるものと変わらないと思うけどね」
「えー?蛍くんこのかき氷食べてみなよ。家で作るのと違ってふわふわだよ?」
「ん、いらない」


美味しいのに。それにさっきから蛍くん全然食べてないじゃない。なまえが食べてるところ見てるだけでお腹一杯だから。そんなのでお腹満たされるなんて、なんて羨ましい体なの!本当に満たされるわけないでしょ。ほんと馬鹿。なんだとー!
そんな会話をしながらぶらりぶらり蛍くんの隣を歩く。あ、射的だ。くいっと蛍くんの裾を引くとちらりとこちらに視線を寄越した彼に射的を指差す。


「あれ、やろうよ」
「え、やだよ」
「なんで!?」
「あのねぇ、あれいくらすると思ってんの?500円も払ってやるものじゃないでしょ」
「ははーん。蛍くんは取れる自信がないわけだな?」
「そんな安っぽい挑発に乗ると思ってんの?」
「デスヨネー!」


これといって欲しかったものがあったわけではないしいいんだけど、やっぱり蛍くんがライフルを構える姿が見たかったなぁなんて。ちら、と蛍くんを見上げる。すると、はぁと大きくため息をついた蛍くんが射的の前に立つとおじさんに500円玉を渡した。蛍くんは何だかんだ言って甘いのだ。


「どれが欲しいのさ」
「蛍くんもう大好き!!!」
「はいはい。で、どれ?」
「えー、と…じゃあ、あれ!」
「は?あれがいいわけ?」


そんなことを言いつつ、狙いを定めるように片目を瞑りライフルを構えた。その姿にどきりと心臓が跳ねる。これは予想以上の破壊力だ。バッチリ写真も撮りましたとも。待ち受け確定。


「ん、取れた」
「すご!すごいよ!蛍くん!」
「まだあと2発残ってるけど、やる?」
「え、私が?…よーし!どれが欲しい?どれでも取ってあげるよ」
「僕のお金だけどね。あれでいいよ」
「おっけ!任せといてよ」
「期待しないでおく」


さっきの蛍くんの見よう見真似でライフルを構える。なんかちょっと恥ずかしいなこれ。
けれど、ライフルから出たコルクはこつんと虚しい音とともに的外れなところに当たった。蛍くんは軽くやってたけど、案外難しいものだなぁ。

むむむと私が顔をしかめると、後ろで蛍くんがぷっと笑う。うわあ、絶対今悪い顔してるよ。人を馬鹿にする顔。


絶対取ってやる!意気込んでライフルを構えると後ろから蛍くんに抱きしめられた。正確に言うと、後ろからライフルを持つ手に上から添えられたのだ。それで抱きしめられる形になったのだけれど、蛍くんの息が耳を掠めて頭がパンクしそうだ。


「け、けけけいけいくん!?!!」
「うるさい。集中して」
「集中できるわけ、」
「下を狙うんだ。そこ、」
「ぅ、わわ…も、むり…」


引き金を引いた瞬間、そのまま机に突っ伏す。おじさんの「ざんね〜ん!」という声に上から蛍くんが「アララ」と小さく笑った。
すごく、楽しんでる。真っ赤な顔をかき氷で冷やすように頬へ当てる。じんわりと熱が引いていくのを感じながら、蛍くんの隣に並んだ。蛍くんのせいなんだからね!とぶつくさ言う私の隣で蛍くんが楽しそうに笑った気がした。



140825


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