それは突然にやって来た。
明日は皆が大好きなバレンタイン。だからせっせとチョコレートを溶かしていたらインターホンが鳴った。
生憎今家にいるのは私一人で、こんなときに誰だよくそなんて思いながらボールの中のチョコが固まらないことを願いながら階段を下りた。


「はいはーい。どちら様ですかー」
「おっ、エプロン」
「は、高尾!?」
「んー、ちょいとお邪魔〜」


驚き固まる私を余所にヅカヅカと中に入っていく高尾に慌てて意識を戻して学ランの裾を掴んだ。ここから先は行かせるわけにはいかない。なんとしても。


「ちょっと待って!何の用事!?」
「こないだお前んち来たときに忘れもんしてさーそれ取りに来たんだけど…」
「じ、じゃあ私が取りに行ってくるから!」
「あ、そう?助かるわー。じゃあ、リビングで待って…」
「駄目!リビングは駄目!絶対駄目!」
「何でだよ?良いじゃん別にー。ってかさ、さっきからなんか甘い匂いしねぇ?」


くんくんと鼻を鳴らす高尾に冷や汗がだらだらと流れ出す。高尾に明日渡すためにチョコレートを作ってるのに…。
今まで幼なじみだからとチョコレートを渡してたけど、今回は違う。ちゃんと気持ちを伝えようって決めて、本命チョコを作ってるんだから。なのに、


「あ、分かった。チョコの匂いだ」
「何で来ちゃうのよぉぉぉ」
「え、ちょ、なんで泣くの。えっ、ごめんって……あ、」
「今更気付いたのかバカヤロー」
「バレンタイン、でしたかー」


あちゃー悪いことしたなぁと口では言うもののそのまま高尾はリビングへと足を進めた。
私にはちょっと意味が分からないです。
駄目だと言う私にお構いなしに高尾はキッチンに入ってチョコをつまみ食いし出した。


「ん、うま…」
「ほ、ほんと?はぁ、よかったぁ」
「んー、でも何でこんなにあんの?」
「だって、緑間くんとか、他にも先輩にも渡さないといけないし。ほら、バスケ部って部員多いでしょ?」


そう言うと見るからに高尾の顔が不機嫌になった。怒ると唇を尖らせるのは高尾の昔からの癖。ほんっと、分かりやすい。


「何で怒ってんのよ…?」
「別にー、何で真ちゃんとかにもあげんのかなーっと思って」
「ええっ、だって一応マネだし」
「俺だけにしてよ」


真剣な表情でそう言った高尾に私の顔はみるみるうちに真っ赤になつた。恋する乙女は単純なのだ。
その言葉はどういう意味なの?嫉妬、と受け取ってもいいの?私は期待してしまう。


「な?俺以外には渡しちゃあダーメ」
「っ、」
「返事は?」
「ワ、カリマシタ…」
「ん、よろしい」


そう満足そうに微笑むと、高尾はもう一つチョコを摘んでリビングを出て行った。
私はというと赤面のまま明日どうやってチョコを渡せばいいのか固まってしまったチョコレートを見つめながらもんもんと考えるのだった。



140213


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