「こ、こういうのは良くないと思うんだ…」
「俺は大好きだけど」
「こんの腹黒ドS野郎!」


じりじりと迫って来る目の前の男に私は頬が引きつるのを感じた。
くそ、どうしてこうなってしまったんだ。こいつに「なんでもするから!」なんてこと軽率に言ってはいけないワードNo.1なのに。

ニタニタと嫌な笑みを浮かべる総悟を前にして、数分前の馬鹿な自分をぶん殴りたい気持ちでいっぱいだった。


* * *


「はあ?映画ァ?」
「そう!これなんだけどね、もうきゅん死にしちゃうぐらいあまーいラブストーリーらしくって!」
「それが観たいと?」
「いえす!」


友達から聞いた話によると、もう観なきゃ絶対損ってぐらいオススメらしい。私もCMでやってるの気になってたし、せっかくだから総悟と観に行きたいな〜なんて。

手を合わせてお願いしますと上目遣いしてみたらチョップされた。地味に痛い。


「仕方ねぇな…明日の11時駅前な」
「ありがとうございます総悟様様!!」



「で?何か言い残すことは?」
「…何もございません……」
「2時間の遅刻、挙句に映画のチケットの時間を間違えて、もう上映時間過ぎてるとか、あり得ないよなァ?」
「返す言葉もありません……」



今にも噴火してしまいそうなほど、ドス黒いオーラを放つ総悟を前にして私は震え上がることしかできない。
アラームのセット時間間違えてたとかシャレになんないよほんと。



「はぁ……」
「!な、なんでもする!なんでも言うことを聞くから許してくださいませんか…っ」
「……なんでも?なんでもすんの?」
「え、あ…はい…私が出来る範囲内なら…」



へぇ、と口元を歪めた総悟にしまったと後悔したのは言うまでもない。

どうしよう。総悟のことだから何言われるか分からないぞ…。いつの間にか人通りの少ない裏道にまで追い込まれて、壁が背中にぶつかった。


「キスしろ」
「えっ」
「今、ここで、キスしろって言ってんでさァ」
「こ、ここで!?誰かに見られる、かもしれないし…は、恥ずかしいし…」
「なんでもするって言ったのはどこの誰だっけ〜?」
「ぐっ…」



それを言われると何も言い返せない。徐々に近づいてくる総悟の顔に、逃れられない状況を焦り始めた。
だって、ここ外だよ?確かに人通りは少ないし、人気も無いけど、それでも誰かが通らないという保証はない。あまりの羞恥心に心が揺れる。



「ちょっと待って総悟。やっぱり無理…」
「いいから黙ってキスしろ」
「ぁ……」


目を逸らしたくても、総悟の瞳がそれを許さなかった。唇が触れるか触れないかぎりぎりのところで有無を言わせないその声音に私は従うしかなかった。


「目、閉じて…」
「ん、」
「っ……」


ドキドキなんてもんじゃなくて、バクンバクン音を立てる心臓をぎゅっと押さえつけて、総悟の少しかさついたそれにゆっくり触れるだけのキスをした。途端に恥ずかしくなって、顔を逸らそうとした瞬間、総悟に顎を捕らえられて、唇を塞がれる。さっきの触れるだけのキスとは違う深い口付け。私は羞恥心なんて忘れて、それに応えるように総悟の首へ腕を回した。




140713

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