今日は部活の帰りに火神くんとマジバに来ていた。バニラシェイクを飲む僕の前の席では火神くんが大量のバーガーを食べる姿がある。もう見慣れた光景だ。
先ほど今日はと言っていたが、今日も、である。僕は今日も彼女のことについて火神くんに相談があるのだ。


「あー、帰りてぇ。毎度付き合わせられてる俺の身にもなれよ」

「火神くんとりあえずiPhoneを置いてその変な顔をどうにかしてください」

「変な顔ってなんだよ!!?」


チッと舌打ちをした火神くんがiPhoneを机の上に置いた。やっぱり録音するつもりだったんだ。油断も隙も無い人ですね。あんな痴態二度と晒すことなんてできない。思い出しただけで顔が熱くなってくる。


「で?今日の相談は何についてだよ。また惚気話だったら帰るから」

「って言ってカバン掴むのやめてもらえますか。帰る気満々とか失礼です」

「その目やめろ!」

「今日火神くんに相談したいことというのはですね…他でもない彼女のことなのですが…」

「ああ、うん。分かってたけど」

「よくよく思い出してみると、何をするのも彼女からなんですよ。デートを誘うのも、写真を撮るのも」

「キスもあっちからだったしな」

「今すぐ記憶から消してください!!」


椅子から立ち上がる勢いで火神くんに突っかかる僕にドードーと宥める火神くん。いつもと立場が逆な気がする。なんだか悔しい。


「まあ落ち着けって。気にしてんならお前からデートでも何でも誘えばいいじゃねぇか」

「それができたら…!苦労はしないんですよ…!」

「あぁ…ツンデレってめんどくせー」

「くっ…デートだって、き、キスだって僕からしたいですよ…!」


机に顔を伏せて、握りこぶしをつくると何やら火神くんが憎たらしい笑い声を上げながら僕の肩を叩いた。顔を上げるのも面倒だが、渋々目線を上へ上げるとヒラヒラと何かのチケットを僕に向けて振った。


「そんな黒子に朗報だ。ここに遊園地のチケットが二枚ある」

「なんですか。自慢ですか火神くん。死んでください」

「お前卑屈になりすぎだろ!?やるっつってんだよ。あいつ誘って行ってこいよ」

「!」

「別に俺はこんなの興味無ぇし、いい機会だ。デートぐらい誘えるようになっとけ」

「火神くん、僕は今日ほど君の相棒で良かったと思った日はありません」

「それは複雑だわ」


火神くんから貰ったチケットを握りしめて、明日必ず誘おうと意気込んだ。デートぐらい、誘えなければ。彼女だって、デートに誘ってくれたのだから。僕からだって、してあげたい。僕は彼氏なのだから。



「明日必ず誘ってみせます」

「おお。それ今日でいんじゃね?」

「は?」

「後ろにいるし。お前の愛しの彼女」

「え"」


思わず変な声が出てしまった。ブリキ人形のごとくギギギと音でもしてしまいそうな風に後ろを振り向けば彼女が少し頬を染めて手を振った。


「や、やっほー…黒子くん、かがみん」

「な、なん…なんでここに!?」

「新作のアイス食べに…そしたら二人を見かけたんだけど出るタイミングを失ってしまいまして…」

「き、ききき、きみはいつからそこに…」

「え、と…くっ…デートだって、き、キスだって僕か「うわああああああああ」…なんかごめんね」


よりによってそこから!!?そんな王道望んでませんから!
穴があるなら入りたい。そのまま埋まって死んでしまいたい。恥ずかしさのあまり机に突っ伏すとツンツンと控えめに背中を突つかれた。こんなことをするのは彼女ぐらい。火神君がしてたら恐怖映像だ。


「ねえ黒子くん。私に何か言うことあるんじゃない?」

「…君に言うことなんかありませんよ」

「ほら、見え張ってないでさ。言って、ね?」

「……」


今顔を上げたらきっと彼女はいつもみたく余裕そうにそれでいて少し気恥ずかしそうな僕の大好きな笑みを浮かべて笑ってるんだろう。


「僕と一緒に遊園地に、行きませんか…っ」

「よろこんで」


ピロリン♪となった火神くんのiPhoneに僕がまた机に突っ伏すことになったのは言うまでもない。



彼氏の黒子くんはツンデレです(デートお誘い編)

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