「……緑間って、ずるいよね」「は?何を言ってるのだよ」
ずるい。ずるいに決まっている。あんなにも人を寄せ付けない雰囲気で、仏頂面の朴念仁のくせに、こんなにも簡単にテツナのことを受け入れる。中学の頃は片割れにも呆れられるほど馬が合わなくて、お互い必要以上の関わりを持とうとしなかったのに、今では自然と相手を気にかけ、自ら関わりを持とうとする。この緑間真太郎という男はなかなか気を許さないくせに、一度自分の中に踏み込むことを許した相手には途端に甘くなる。高く頑丈な城壁で囲まれ、簡単には開いてくれない強固な城門があってもその中は驚くほど手薄だ。その中に迎え入れた相手に対して、彼は外側から見ていた時とは違う顔を見せる。別に愛想がよくなるわけでも、横柄さがなくなるわけでもない。ただ、ふとした瞬間に雰囲気が柔らかくなって、今日みたいに自ら歩み寄ってくれるようになった。長く綺麗な指だ。手入れをけっして欠かさない、尊き努力の証は何の戸惑いもなくテツナへと伸ばされた。額から消えずに燻る熱が、その指先から緑間にも伝わってしまえばいい。自分なんかを受け入れて、無意識にこんなにも無防備な姿を晒されて、テツナばかりがドキドキしている。ずるい。緑間はずるい。緑間は訳がわからないと言う顔をしてテツナを見る。その姿を見上げて、テツナは安心したような、ちょっとがっかりしたような笑みを浮かべる。なんなのだよ、と首を傾げる緑間の後ろ、テツナの視界の端でまたニヤニヤと楽し気に笑っている高尾が心底恨めしかった。
微熱綴り
Title by 3gramme.