「Trick or Treat」

それはもう綺麗に笑って言ってくるものだから、余計に嫌な予感しかしない。元から整った顔を更に引き立てる完璧な笑顔を浮かべた赤司は、逃がさないとでも言うようにテツナの前に立ち塞がった。赤司の考えていることなんて、たいてい彼女にも緑間にも考えが及ばないことなのだけれど、時折こんな風に言葉にされなくても何が待っているのか、嫌でも気付かされる時がある。そして、その予想は十中八九よくない結果しか示さない。赤司は自身が思惑を口にする前から、その雰囲気で何がくるのかを察して歪む顔とかを見るのが楽しいのだ。だから、普段は相手に気付かせないように微塵も隙を作らないのに、こういう余興の為にはその鉄壁を崩す。それが赤司を楽しませるものだと理解していても、殊更笑顔の彼を目の前にしては嫌でも口許が引きつってしまう。なんて憎たらしい。自身に向けて伸ばされた腕に、片割れ同様滅多なことでは取り乱さない彼女も思わず身構えた。

「お菓子がないなら悪戯だな」
「なっ…」

意外とゴツゴツとした手が頬に触れた。普段は少しも意識しないのに、赤司が男の子なのだと思い知らされる手の感触だった。彫刻のように綺麗に微笑んでいた口許が、意地悪く弧を描く。彼の赤い双眸に自分の姿が映っているのを認識した時、蛇に睨まれた蛙のようにテツナは動けなくなってしまった。正に捕食者とその獲物。スッと優しく頬のラインを撫でた指先の感触に、何かが背筋を駆け上がった。勝ち誇った、意地の悪い笑みを張り付けた綺麗な顔が近付く。嫌な予感しかしない。ゴツゴツしているのに、女性みたいに細くて長い指がテツナの顎を持ち上げる。距離が一気に近付く。咄嗟にギュウッと目を閉じた。いったい何を考えているんだ。こんなベタな展開、誰も期待していない!

「…くっ、はは」

肩に重みを感じて目を開けると、赤司はテツナの肩口に顔を埋めて肩を震わせて笑っていた。盛大にからかわれた。何を期待していたのだろう。少し考えれば本気でそんなことをする筈がないと分かるのに、らしくもなく取り乱してしまった。顔を上げてテツナから離れると、赤司は羞恥心で赤く染まった彼女の頬を見て最高に上機嫌だ。

「面白いものを見せてもらったよ。お前の焦る姿なんてそうそう見れるもんじゃない」

まるで小さな子供をあやすようにテツナの髪をなでる。途端に不機嫌さを全開にして下から睨んでくる姿に、赤司はますます楽しげに笑みを深めた。未だに赤みが引かない頬のせいで迫力に欠けるその表情は赤司を喜ばせるだけ。赤司がそういう性分であることは知っていたけれど、やはり悔しくて、テツナの表情は厳しくなる一方だ。ポケットに忍ばせていた飴玉を彼女の手のひらに落とすと、憎らしいほど綺麗な笑みを浮かべて赤司は去って行った。用意周到。本当に意地が悪い。まだまだ熱が引かない頬さえ腹立たしくて、紛らわすようにイチゴ味の飴玉を口に放り入れた。


愛をひとつまみ、ぺろり


Title by 誰そ彼
2012年 ハロウィンlog



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