「とりっく おあ とりーと」

相変わらず気だるげな口調で紫原は、この時期お決まりの台詞を言った。両腕に溢れんばかりの色取り取りのお菓子がつまった紙袋を下げておきながら何を言うのか。中学生の平均を遥かに超える身長の高さからくる威圧感はあるものの、極度の甘いもの好きなところと妙に子供っぽい性格からか、紫原はクラスの女子だけでなく男子にすら弟感覚で世話を焼かれ、可愛がられていた。今朝もクラスの枠を越えてハロウィンを意識したラッピングに包まれたお菓子を貢がれていたのだが、どうやら知らぬ間に貢ぎものが増えたようだった。一つだった紙袋は放課後に至るまでに三つに増えていて、紫原のお菓子に関する奇行に慣れているテツナでも流石に眩暈を覚えた。こんな量のお菓子、バレンタイン恒例の黄瀬でしか見たことがない。どう考えたって世間一般から見れば有り余る程の量なのだけれど、彼にとってはこれでも足りないらしい。見ているだけで胸焼けを起こしてしまいそうなお菓子の山と、それにも関わらず自分にまでお菓子を要求してくる紫原の大きな手の平に、思わず彼女は溜め息を溢した。

「ないよ」
「テツナちんのけーちー。ハロウィンなのに信じられんねー」
「我が儘言わない」

差し出された手を軽い力で叩き落とす。何がハロウィンだ。クリスマス同様、何の為の行事なのか分からぬまま、ただお菓子が手に入るからとあやかっているだけのクセに。片割れにさえ眉を顰められてしまうくらい、普段から紫原を甘やかしてしまったのがいけなかったのだろうか。小さな子供のように口を尖らせる、自分より頭二つ分以上大きな存在をテツナは見上げる。そんな顔をしたって無いものは無いし、あったとしてもそれだけの量を貰っている人間に与えるお菓子は生憎ない。

「じゃあイタズラする?」
「何するつもりか分からないけど、そんなことしたらもう敦と口聞かない」
「えー、それはヤダなあ」

本日の戦利品を咀嚼しながら、紫原は大してそう思っていないだろうと言いたくなるような適当さで言葉を返した。紫原は自分が度の過ぎたことさえしなければ、テツナがそんなことをしないと知っている。それに彼女も、どうせ紫原の悪戯なんてお菓子買ってとか何処何処の店に付き合ってだの、悪戯ではなくただのおねだりだろうと予想がつくから一向に構いはしない。結局はいつものように彼女が紫原を甘やかして終わるのだ。

「ねぇ、何もしないからケーキ作ってきて」

ほら、いつもと何ら変わらない。それは悪戯ではなくおねだりだと分かって言っているのだろうか。どちらにせよ、紫原に大層甘いテツナは小さく笑って快くそのイタズラを受けるのだった。


ハート型に切り抜いた心臓をくれてやる


Title by 誰そ彼
2012年 ハロウィンlog



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