「なんで…」
「さぁね、…僕だって不本意なんだよ。わかるでしょ?」

メリゼウスの要塞。その鉄壁の壁を守護するは死神騎士とかつての同級生カスパルとリンハルトであった。正門を抜け進軍を続けると対面するは深緑の髪。著しい成長を遂げた彼を前に思わず構えた右手に力が抜ける。眠そうな顔つきは、変わっていない。彼は昔からいつも眠そうにしていたが、言うことは的確で聡明だった。正直すぎる面もありやや言動に問題があるように思えたが、そんな所が好きだった。一人の男性として、焦がれていた。

先生が消えてしまった後戦争が始まって以来彼は相当優秀な策士になり、戦略の成果は風の噂で聞くようになった。戦が嫌いな彼が何故エーデルガルトを支援するのかわからなかった。正直逃げ出すか、またはエーデルガルトの元を離れると思っていた。ずっとずっと疑問だった。だって言ってたじゃないか。戦争のない平和な世界になればいいと。木漏れ日の溢れる長閑な場所で、昼寝を目一杯するのが夢だと。
何より5年前リンハルトと女神の塔で交わした約束はなんだったのか。今一番が興味あるのは君かな、なんて。塔のジンクスをロマンチックに語って、士官学校を出た後も一緒に会おうと囁いたくせに。その時も、これは夢かもしれないなんて感じていたけど、やっぱり夢だったんだ。

「そんなに睨まないでよね。僕は君の事片時も忘れた事なんてなかったよ」
「手紙の一つもよこさなかったくせに」

我慢していた涙がはらはらと溢れ出す。
私は何度も送った。伝承鳩なんて調教が難しい事も貴方に届くならと思って一生懸命覚えて。2年前から定期的にずっと。貴方が戦況をあげた地に何度も想いを馳せながら飛ばしたのに。鳩も返事も返ってくることはなかった。貴方に会える日を夢見ていたのにこんな形で再会しなければいけないなんて、ひどい話よね。

「泣かないでよ…。僕だってさ、何もしてなかったわけじゃないんだよ?これでも結構いいように使われてて昼寝どころじゃなかったんだ。大体、やりたくもないことをやってたのは、君が前線で死んでないか確認する為なんだよ?」
「随分と戦果に身を置いてたからね、5年前よりは断然強くなったからこのとーりピンピンしてますよ。それに私だって全然本を書けなかった、この戦争のおかげでね」
「それは同感だね、多少は紋章の研究が出来るけど優雅にお昼寝ってわけにもいかなっ…!」
「!!」

いつまで経っても敵を討ち取らない大将に痺れを切らしたのか、帝国兵が私に黒魔法を飛ばす。咄嗟のことで回避が間に合わない、このまま当たる!そう覚悟を決めた時、漆黒の魔力を先生が一振りの剣で切り裂く。

「先生…」
「……」
「はあ……本当なら、僕がそこに立っていたいのになぁ先生」

チャキっと天帝の剣を構える先生の顔はどこか切なそうだった。一人の兵が動けば周りもそれに続き、攻撃を仕掛けてくる。応戦するように私も魔術を繰り出す。しかし一瞬の隙だった。兵を率いる手前、目の前の侵入者を排除しないわけにいかないんだろう。リンハルトも兵に加わるようにこちらへ手を向ける。リンハルトの目はただただ私を見据えていた。荒々しい戦場の中なのに、時が止まったようにゆっくりと彼と目が合う。口元が何かの詠唱を唱えているのが見えた。彼の手から広がる魔法陣に魔力が篭る。刹那の瞬間、先生が振りかぶろうとする。刃の矛先はリンハルトを捕らえていた。

「やめて先生っ!リンハルトを殺さないで!」
「っ!」

堪らず道筋を庇うように矛先へ飛び出した。
先生の迷いのない剣はそのまま風を切るように走る。同時にリンハルトの魔術がこちらへ放たれるのが分かった。どっちにしろ死ぬなこれ。あぁ…私ここで命運が尽きるんだ。結局、この戦争が終わる時を見届けられないし、リンハルトとも結ばれずに終わる。酷いよ、こんなのってないよ。リンハルトなんか、私の死体を見て狂ってしまえばいいんだ。女神の塔のジンクスは本当かもしれない。将来彼が誰かを娶ったとき、化けて出てやるんだ。

「主人公!!」

先に私に届いたのは天帝の剣だった。先生が器用に狙いをずらしたのだろう、ザクッと肉を切り裂くけれど致命傷ではない。先生の声が聞こえる。先生、ありがとう。私のために覚悟を決して彼を討とうとしたんだね、ごめんなさい弱くって、ごめんなさい最期まで足を引っ張って……。ごめんなさい。
ごめんなさい………。

光が私を包み込み、そこで意識が途絶えた。




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