寮の外を歩いていると男子生徒が談笑を楽しんでる声が聞こえた。いつもならそのまま素通りするところだけれど、何故か耳によく入ってきた。

「嫡子って言うのは良いもんだよな。昼寝してるだけで成績があがるんだ」
「あぁ、リンハルトな。エーデルガルト様はかなり才能を買ってるみたいだけど…それも本当かな?貴族たちの癒着の恩恵を受けてる可能性があるし」

陰口。しかも、リンハルトの。私の心が暗い影を落とした。そりゃリンハルトは、生活面はだらしない所があるかもしれないけど、あんたたちみたいに負け惜しみを言ってる奴らに侮辱されるほど、落ちぶれてはいない。
なんとも、不愉快だ。
わだかまりは残っているけれど、こいつらに時間を割くほど私も暇じゃない。ほっとけばいいんだ。
横目で彼らを睨みつけならがそのままふと前を向くと物陰に緑色の髪をしたよく見知った人がいた。リンハルトだ、彼はただそこから出られないようだった。普段から動かない表情はどこか苦痛の色を浮かべ、リンハルトはどこかへいってしまった。
リンハルトの存在に気付いていない彼らもそのままどこかへ行ってしまっていた。
「……今の、絶対聞いてたよね」
普段見せないような顔、彼の心境が気になってしまい、私は後を追いかけた。



「全然いないじゃん」


追いかける否やどこへ行ったのか分からなくなってしまったので、リンハルトが行きそうな場所は思いつく限り回った、はず。だがしかし、年中無休の冬眠男子はどこにも見当たらない。
敷地内をかなり歩き回ったから疲れた…、はぁ、もういいや。ぐぅ〜っと腹の虫が耳を突いた。元々薄い体力を消費したせいか小腹が空いた。……もういいや、見つからないものはしょうがない。うなだれながら、私は何か食べようと思い食堂へ向かった。

「わっ!」
「おっと」

食堂へ入ろうと曲がったその時どんっ!と誰かにぶつかってしまい、反動でよろける。咄嗟に腕を掴まれた。

「ご、ごめんなさいよそ見してて」
「いいよ別に」

凛とした抽象的な声に思わず顔をあげると

「リンハルト!」
「いかにも僕がリンハルトだよ主人公
 ちょうど良かった」

食堂は一度探したけれど入れ替わりになってたのか!なんという痛恨のミス!それにリンハルトの表情はいつもの雰囲気に戻っていて特に変わりなかった。まったく人がどれだけ探したと思っているんだ…。私の苦労も別にリンハルトには関係ないのだけれど、はぁ…まさにこれが骨折り損のくたびれもうけというやつか…。

「なんで少し落ち込んでるの」
「いや落ち込む必要はないの…ただ疲れただけ」
「あぁそう。なら一緒にお菓子食べよう」
「え?」

よく見ると彼は小さなバスケットを持っていた。リンハルトはほら、っとバスケットの上にかかっていた布をチラリと退かして中身を披露した。中にはクッキーやカップケーキなどの焼き菓子がたくさん入っていて思わずゴクリ、と唾を飲む。

「お、おいしそう…」
「疲れた時は甘い物に限るよね。ここじゃなんだしベンチで食べよう」
「え、あ、食堂で食べればいいんじゃ…」
「人が多いと絡まれる確率があがるし、僕はゆっくりしたい気分なんだ」

そういうとそそくさと歩いていってしまう彼の背中を追った。
ベンチに座るとリンハルトはしまった、紅茶を忘れたまぁいいか。なんて呟きながら二人の間にバスケットを置き布を外した。

「これリンハルトが作ったの?」
「まさか!材料の調達に、調理、そのあとの片付けなんて時間のかかる事僕がすると思う?作った事すらないのに」
「じゃあこんなに何処で」
「そりゃ君の学級の先生がお茶会してたからそれを少し分けてもらったのさ」

先生…ベレト先生はたまに生徒を呼んでお茶会を開いていた。いきなり現れてお菓子をくれなんて言われた先生はさぞかし驚いただろう。それでも先生はきっと気前良く分けてくれたんだろうなぁ、わざわざバスケットまで用意してくれて…軽く想像がつく。

「君がすぐ見つかって良かったよ」
「あぁ…こんなにたくさん食べられないもんね」
「そうじゃなくて、君と食べようと思って貰ってきたから」
「え」
「いただきます」

リンハルトはクッキーに手を伸ばし口へと運んだ。私は何事もなかったかのようにけろっとした彼をただただ呆然と見てるしかなかった。いま、なんて言った?なんて言ってたっけ?どういう意味?
……まぁリンハルトの事だ。深い意味なんてないんだろう。

「はぁ…考えてるだけで疲れるからもういいや…」
「主人公も僕みたいな事いうんだね」
「別に…私もリンハルトの事を探していたから、食堂で会ってなぁんだって思っただけ」
「そうだったの?何の用で」
「もう終わった」
「主人公は話が早くて助かるね」
「……リンハルトこそ、なんで私と食べたかったの」
「さぁ?」
「さぁ?って!」

ほらやっぱりね、深い意味なんてこれっぽっちもないんだ。少しがっかりした胸を押さえ、私もカップケーキをがぶり、と口に頬張った。甘味が舌を滑って胃の中に収まる。これは、中々美味しい。

「ちょっと嫌な事があってさ。そんな時はこうやって甘い物を食べて忘れるんだ。でも主人公と会って一緒に食べた方が凄く良い気がしたんだ。不思議だよね」
「……リンハルト」

やっぱりさっきの陰口、聞こえてたし、気にもしてたのか。リンハルトの心にナイフが刺さっていて今穴が空いているんだ。平気そう、だなんて思って私って馬鹿だな…リンハルトの気持ち全然察してあげられなかったんだ…。

「私は、リンハルトの研究熱心なところ好きだよ…」
「え?うん。それは、結構効くな」
「結構聞くなら良かったよ…」

良かった。リンハルトの良いところをわかってくれてる人は結構いるのか。黒鷲の学級も良い人が沢山いるしね、エーデルガルト様も本当にリンハルトの能力を買ってるんだし。それだから、私のボキャブラリーの無さが普通に恥ずかしい。

「もっとある?そういうの」
「え、」
「僕の好きな所もっと言ってよ」
「すっ!!」

リンハルトはずいっと顔を近づけてそう言った。思わず顔から火が出る。身体を仰け反ってもその分近づいてくるのでいたちごっこだ。

「そ、そういう意味じゃないから!」
「え?主人公僕の事が好きなんじゃないの?」
「そういうんじゃないからー!!!」

リンハルトの顔を直視できなくなってそのまま寮へと走って逃げた。リンハルトの馬鹿。馬鹿。馬鹿なんじゃないの!この羞恥心にまみれた恋心があっさりバレていたなんて、恥ずかしくて明日からどう顔を合わせればいいのかわかんないよ!

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