ガルグ=マクの士官学校の敷地内。木漏れ日の中でゆっくりと目を覚ます。
身体を起こせば窓が見えた。そよ風がこの葉を揺らして笑っている。
いつの間にか眠っていたみたい。私は書庫で本を読むのが日課だった。魔法や剣術のもあまり得意ではなく、その苦手は知識で補うしかなかった。
ずっと同じ姿勢で寝てたせいか体が硬くなっていたので大きく背伸びをする。はあ、と脱力すると隣で聞こえる寝息に気付いた。
「リンハルト…」
いつ来たのか、全然気がつかなかった。
リンハルトは頭脳明晰ながらもその堕落っぷりは学校の生徒誰もが知っているだろう。クラスが違う私でさえ知っている。
彼はよく昼寝をしている。彼がいる場所は私が好む場所と似ているらしく、顔を何度か合わせたことがあった。初めて彼を見た時はその寝顔の美しさに女の子かと思った。寝ていると言うより倒れているように見えたのでシルヴァンをわざわざ呼びつけて一緒に起こそうとした。シルヴァンはリンハルトの顔を見るなり勘弁してくれよ、と頭をかいて心底がっかりしていたっけ。
すやすやと寝息を立てているリンハルトの髪の毛を撫でてみた。起きないことは知っていた、彼はよく寝ている。
いつだったか、なんでそんなに昼寝をするのか?と尋ねた事があった。「君がここでうたた寝してるのと違いある?」そう言われて何も言い返せなかった。
「いいな、リンハルトは」
思わず呟いてしまう。
リンハルトは好きなことだけやっているらしい。人にとっては途方もない努力も、いつか紋章の謎も解き明かしてしまうのかもしれない。ただ、彼は好きなことに対しては全身全霊だ。才能というやつで、それ以外に興味がないだけだ。
「なにが?」
「わあっ!」
肩が跳ね上がる。周りの生徒が一気に注目したので身体を縮めた。びっくりした…夢の中にどっぷりと浸かっていると思っていた彼が急に現実へと現れたのだ。髪の毛に滑らせていた手を急いで引っ込める。
「あ、やめちゃうの?結構気持ち良かったんだけど」
「えっ、いや、ご、ごめん」
「なんで謝るの?謝られるようなことされてないけど…そもそもなんの話だったっけ?まぁいいやめんどくさいし」
そう言って大きなあくびをしてリンハルトは目を擦った。
彼の回答に唖然とする。相変わらず自由人だ、でも私が悪いのだけれど…。いやわるいというか、恥ずかしいだけなんだけど。
そんな事を思っていると鐘がなる。予鈴だ。講義室へ行かなきゃ。
ガタっと椅子を引くと袖をぐっと掴まれる。リンハルト?
「な、なに?」
「まだ寝てない?」
「だっ、ダメだよ!講義が始まるんだから」
「そう…残念。いってらっしゃい」
「……いやリンハルトも行かなきゃでしょ」
「やっぱり?」
講義を堂々とサボろうなんて、リンハルトくらいなんじゃないだろうか?なんで士官学校へ入ったのか不思議だ。もしかしたら、入らされたのかもしれないけれど。
「主人公」
「なに?」
「あとでね」
そういって彼は椅子から離れると手をひらひらとさせて行ってしまった。
彼は自由人だ。頭脳明晰ながらもその堕落っぷりは学校の生徒誰もが知っている。クラスが違う私でさえ知っている。それだけ、ただ、それだけの認識……なのに、なんでこんなにも顔が熱くなって心が満たされるんだろう。
呆然と立っていると私も行かなければいけない事を思い出し急いで書庫を後にした。完全に遅刻だ。これも、リンハルトのせいだ。