今私は、カスパルと一緒に買い物のため街に出ている。本当は私の当番じゃなかったのに。

もう一度言う、私の当番じゃないのだ。本・当・は!!
隣で頬に殴り跡を負っている水色の少年は、本来なら此処に立っていたはずの同級生とひどい喧嘩をした。たまたまそこに居合わせたのは全てが終わった後で、カスパルは駆けつけたマヌエラ先生にしこたま怒られていた。カスパルは罰としてそのまま本来ならやらなくて良かった買い出しまでする羽目になったらしく、マヌエラ先生はお守り役として街に出かけようとした私を指名した。ツイていない。もちろんカスパルは自分が受けた事だからと拒んできたが、一人で街に行かせるとろくなことがないと先生はわかっていた。貴女は分かっているわよね?と目配せしてきた先生に逆らえるはずがなかった。

斯くして、やらなくても良い当番をさせられているのだ。

「悪ぃな主人公。お前は関係ねぇのに付き合わせちまって」
「いいよカスパル。元々勉強がひと段落して息抜きしようと思ってたんだ」
「あぁ主人公は魔術専攻だったな。今度お前の腕前を見せてくれよ!」
「えぇ!嫌だよ、全然凄くないんだから」
「そんなの見なきゃわかんねーだろ?今日は無理そうだから、明日でいいよな?」
「勝手に話を進めないで貰えないかな?!」

正直行ってカスパルとは殆ど会話した事がない。学級が違うと言うところも大きいが、いかせん彼は血の気が多すぎるのだ。どちらかと言うと苦手なタイプと言えた。最初は少し警戒していたのだけれど、喧嘩っ早い性格の割に、彼はとてつもなくフレンドリーだった。そしてもう一つ意外だったのは、彼は値切るのが上手い。上手い、というか勝ち取る意欲が物凄い。一つの部品が貰っていた予算よりも高く展開されており、店主に理由を聞いたところ、最近高騰してしまったんだと。これは購入を諦めよう…なんて私が落胆していると彼はいきなり価格を下げろと息巻いた。店主はカスパルの強い熱に押されに押され、部品は無事私達の手の中に渡った。そんなこんなで、先生から承った物資を順調に調達していった。

「さっきのは凄かったよカスパル!」
「っはは!見たか俺の腕をよっ!俺はいつだって全力で目標を遂行する!」
「うんうん、私だったら諦めてたのに。見直しちゃったよ。それに思ってたより早く終わってよかった」
「あぁ!時間が空くように急いだ甲斐があったぜ」
「え?そうなの?」

確かに彼は荷物を断固として私に持たせてはくれなかったし、早足で行動していた。そういう癖なのかと思って必死についていったけど…なるほど、意図的にそうしていたのか。

「よぉし!じゃ、主人公行くか!どっからにする?俺はどこでもいーぜ!」
「…はっ?どういう事?」

両腕を頭に組んでカスパルは豪快に笑った。手に購入品を持ってるくせにどえらい腕力だなカスパル……。いやいやそれよりも、今の発言の方が大事だ。

「どういう事って…お前さっき息抜きの為に街に来ようとしたって言ったろ?」
「そうだけど…え?もしかして、これから遊ぶの?」
「あったりめーだろ!やる事はやったわけだしよ、パーッと派手にな!」
「い、いいよカスパル!結構物資も多かったし全部カスパルが持ってくれてるじゃん。このまま士官学校に戻ろう?」
「そんな事してたら日が暮れちまうだろ!それに俺も鍛えてるからこれぐらいどーってことねぇよ!」

にっこりと笑顔を爆発させると購入品を持ってガッツポーズをする。思わず笑みが溢れた。カスパルは、いい人だ。しかも、飛びっきりの。それもいいかもしれない。

「えへへ、ありがとうカスパル…どこからにしよ………あっ…」

息を抜いて彼に語りかける前に、私の目の前に空から一雫落ちてくる。それはポツポツと地面を濡らしていき、段々と強まった。なんてこった、雨だ。

「大変だよカスパル!買った物、濡れっちゃったらやばい!」
「っうぉおおーー!主人公走るぞ!戻れーー!!」
「カスパル落ち着いて!一回雨宿りしよ!!」

そのまま走ってガルグ=マクに帰ろうとする彼を制しするのは大変だった。幸い部品はあまり濡れておらず、カスパルも風邪を引く事はないだろう。良かった。っというか何故走って帰ろうとしたのか、よくわからない。

「あぁ、降ってきちまったなぁ」
「しょうがないよ、自然現象だもん…」

はぁ、とため息が口から溢れる。ちょっと期待したせいか落胆のダメージが大きい。ゆっくりと流行りの本や服を見たかった。紅茶だけじゃなくて、たまには街で流通しているコーヒーを飲みたかった。チョコレートもご褒美に欲しかったなぁ。溢れ出す欲と後悔は息と共に外に出て行く。

「なあ主人公。これも明日でいいか?」
「え?」
「俺と一緒にさあ訓練して、お前の技を見させてもらってよ。一息ついたら、一緒に来ようぜ!」
「一緒に…?」
「おう!約束だぜ!」
「……ふふ… …あははっ」
「なっ、なんだよ!笑いやがって、なんか悪ぃのかよ!」
「ごめんごめん、うん。明日ね、明日。勝手に決めて…あはは」
「笑うなー!」

さっきまでの気持ちはどこへ行ってしまったのだろう。私の心に降った雨は、見事に彼が晴れにして見せた。それも快晴だ。明日はきっと、いい日になるだろう。



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