あなたはまるで太陽のように



昔から、お稽古と勉強ばかりのこの生活に、
感情なんて抱いたことはなかった。

別に嫌なわけでもなかった。

なのに貴方に会ってから、すごく退屈に思えるの。
どんな文献を読んでも理由は分からなかった。


この気持ちはなんですか?


「名前先輩!」

教室の窓から聞き慣れた声が聞こえる。

『切原くん、どうしたんですか?』

「ねぇ先輩!今日の放課後空いてますか?」

彼は帰る支度をしていた私の机まできてこう聞くのだ。


『……すいません。今日は華道のお稽古が…』

「えぇーまたっすかー!!?
先輩、毎日空いてないじゃないっすかー!!」

『申し訳ないです…』

「…まぁ、別に怒る気はないっすけどぉ…」

プクリと頬を膨らませる彼が可愛らしかった。


「…先輩、毎日毎日習い事ばっかで
つまんなくないんすか?」

『え…?』

「だって、友達と遊びにも行けないっしょ?」

『べ、別にそんな…ことは…』

分からない。
今まで何も考えず、ただ家の教訓に従って
お稽古を習ってきたから。

友達と遊びに行くことなんてなかったから。

「嘘っす」

『え?』

「だって名前先輩、笑ってないっすもん」

笑う…私、笑ったことなんてあるのかしら。

「…よし決めた!今日の稽古はサボりっす!」

『えっ!?』

「行きましょ!名前先輩!」

そう言って彼は私の手を取り走り出す。

彼は意外と足が速くて、
だけどときどきこちらを見ながら私に合わせて
走ってくれた。

校門なんてあっという間に抜けて、海岸の道を走る。

「俺、先輩に笑ってほしいんす!」

肩越しに彼の声が聞こえる。

「だから、先輩が知らないもの、
俺が見せてやります!」

顔が熱くなるのは、走っているからだろうか。



振り返って、少し照れた顔をして笑うあなたが、


まるで太陽のようだから、


この暑さは太陽のせいで間違いないみたい。





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