あなたは世界一バカである


カチッ

時計の針が鳴った。
ふと見上げれば、それは深夜の2時を知らせていた。

『……蓮二…』

この頃は忙しいのだろう帰りが遅く、朝も早かった。
会社で夜を越すこともあった。

『…ばかぁ……』

あいつの好きな薄味のかぼちゃの煮付けも、
その温かみをすっかりなくしてしまっていた。


8ヵ月の子を持ったお腹をさすり、
『パパおそいねー』
と声をかけてみる。

泣くもんかと唇を紡ぐ。

ずっと一緒にいてほしいとか、別にそんなことは望んでいない。
むしろ稼いでくれているのだから感謝しなければならない。



だけど、それでも



夜になると不安になる。

事故に遭ったんじゃないかとか、もしかして浮気だろうかとか、考えたくもないことまでが頭を過る。


独りにされたら、私はどうすればいい?
この子を抱えて独り生きればいいの?


ねぇ蓮二、


「名前」


頭上から声が降り注いだ。
顔を上げれば見慣れた、けれどとても見たかった顔が私を見つめていた。

「…ただいま」

『お…おかえり』

「泣くな。遅くなってすまない」

私はハッとして頬を触ると、濡れていた。

「大丈夫だ安心しろ、俺はどこにも行かない」

『…うん』

昔から、蓮二の相手の心情を読む性格が嫌いだった。
すべて見透かされているようで。

「バカ、と、お前は言う」

『……大馬鹿』

「……」



私の旦那は世界一のバカであるようだ。



「…実はな、明日の土日、連休が取れたんだ。
だから、赤ん坊の洋服でも買いに行こう」

『……』

「それで許してくれるか?」

『…煮付けあっためるから待ってて』

「あぁ、ありがとう」


許す私は、このバカ男にそうとう惚れている。




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