だから君なんて嫌い(後編)




跡部と会わないまま1週間が過ぎ、土曜日がやってきた。


「お嬢様、お召し物はいかがなさいますか?」

『どれでもいいよ』


今日は約束のお見合いの日。

いつもなら嬉しい土曜日が、今日だけは重い。


ドレスルームに入って、世話係があれはこれはとドレスを見せてくる。

正直ドレスなんてどれでも良かった。
跡部相手ならちょっとは真剣に考えたんだろうけど、これから会うのは顔も知らない他人。


ぼーっとドレスを見回す中、一着のワンピースが目に入った。


『ごめん、やっぱりこれにする』






都内のホテルに到着して、待合室に連れられる。


「お相手様がお越しになるまで、こちらでお待ちください」

そう言って扉が閉められ、無駄に豪華な部屋に一人になった。


目の前のテーブルには紅茶とお菓子。
いつもなら手を伸ばすけど、さすがにそんな気分にはなれなかった。


ふと置かれた鏡を見ると、自分の着ているワンピースが目に入った。

淡いエメラルドのワンピース。
跡部が初めてくれた服。


初デートの前日、服を選ぶだとか眠れないだとか、そんな少女漫画みたいなキャラじゃないあたしは、夜遅くまでゲームして寝落ちした。

朝、案の定寝坊して跡部を待たせるはめになった。
テキトーにあったもん着てきたら「お前に期待した俺様が馬鹿だった」と呆れられた。

そのあとに跡部に連れられて入ったショップで買ってもらったのがこのワンピースだった。

「お前には目の色と同じエメラルドが似合うからな」

初めて褒めてもらえて恥ずかしかったからその時は飛び蹴りしたけど、すごくすごく嬉しかった。

どうしても捨てられなくて、ドレスルームの奥にしまっておいた。


まさかこれを着るなんて思ってなくて、まだあの野郎を忘れられてないことに複雑な気持ちになった。


本当はお見合いなんてしたくない。
でもこれは家の決まりであって分かっていたこと。

仕方がないこと。避けられないことだったから。


涙が滲みそうになるのを堪えていると、扉がノックされる音が聞こえた。

「お嬢様、準備が整いましたので、こちらに」

『うん』


連れられた部屋の前に立って、深呼吸する。
緊張感が身体中を走っていく。

扉を開けて、呼吸が、止まった。


「俺様を待たせるなんていい度胸じゃねーの。あーん?」



なんで?どうして?
どうして君がそこにいるの?

『あと…べ…?なんでここにいるの…?
相手の人は?』


「あの会社なら、我が跡部財閥が買い取った。
つまり、今は跡部財閥の支配下にあるってことだ」

『………』

「だから俺様がこうして見合いの席に来てやったってわけだ」


『………んで……』

「あーん?」



どうして君は



『なんでそこまでするの!?
こっちは別れまで切り出して諦めようとしたのに!!
馬鹿なの!?』

「なっ…」


『跡部なんてだいっきらい!!』




大好き。




結局、縁談はそのまま進められた。
お父様は大喜びだった。

跡部家のほうも納得してくれたようだった。



「俺様はまだ15だ。だから今はまだ結婚はできねぇ」

『うん』

「だから、18になったとき、改めて言わせてもらう」

『うん』

「名前」




「愛してる」


『知ってる』




待ってます。ずっと。





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