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世界でいくつの

※生存平和時空。DIOとジョルノが相まみえている世界線。


 自分の容姿は比較的整っている方だと思う。昔からこの容姿で得をしていることだってあると思うし、自分だってこれを活用しながら生きてきた。だからこそ降りかかる火の粉や面倒ごともその分多いけれど、自分の持って生まれたものをすべて利用するのがわたしの信条だ。
わたしを一人で育て上げた母も、やはり贔屓目抜きにしたって綺麗だと思うし、彼女によればわたしの父親もそれはそれは整ったお顔の持ち主らしい。わたしは会ったことが無いけれど、父は「彫刻のような顔と肉体を併せ持っている素晴らしいお方」だとかで、母はわたしの幼いころからいっそ陶酔しきった顔でわたしに繰り返しそう言った。正直なところ、じゃあどうしてその「素晴らしい方」はわたしたちの傍に居てくれないんだと、そう思ったけれど、母の憎しみなど微塵も感じられない表情を見ていたら口を噤むほか無かった。それにわたしは怖かったのだ。会いに来ない父親に、そこまで陶酔できる母の熱病に似た感情が。

「なまえ、アメリカに行くから、準備して」

 だから、母がそう言った時にわたしは確信した。ああ、父が見つかったのか、と。なぜなら、母の表情は、わたしに父の話をするときのそれと全く同じであったからだ。目を潤ませながら鞄に荷物を詰め込む母に、ついていかないという選択肢は無かった。わたしは母が好きだった。わたしを一人の力で逞しく育て上げた母が。そして父を憎まずに未だ熱病に突き動かされる母が。
 だから、服を選びながら、わたしは決心したのだ。わたしが父を見極めてやるのだと。この十数年母とわたしを放置し続けた男が、一体どんな男なのか。母を狂おしいほどの愛で縛る男が、誰なのか。
 それなのに。


△△△


 わたしたちを先導し目の前を歩いていくここの職員だという男は、空条承太郎の配慮だと、そう言った。アメリカ、テキサス州ダラス、SPW財団本部。空港から出れば見るからに高そうな外車がわたしたちを迎えに来ていて戦慄した。車内ではこれから向かう場所と、父と会う際の注意事項について述べられて、時折母は感謝と共に涙ぐんだ。詳しいことは分からないわたしだが、母とその職員の会話の端々から何となく物語をつくることはできる。
 父は恐らく結構なことをやらかしてしまった人で、そうして何故か分からないけれどこの財団に捕まっている。連れ出すな、入る前にボディチェックを、武器を渡すのは禁止、等々の注意から予測できた。警察のお世話になっていないだけマシなのかもしれない。
 父は捕まる前に、母を自分の元から逃がしたらしかった。愛ゆえかは知らないが、母は逃げ出し、そうしてわたしが生まれた。母、もしかして結構やばめのことに加担していたのだろうか、そうぼんやり思ったけれど、職員が母を拘束するそぶりもないのを見ると、違うのかもしれなかった。

「繰り返しますが」

 武器になるものの所持は禁止です。カメラを通してチェックしていることはご了承願いたい。その後も改めて注意が並び、そうしてわたしは厳重な扉の先を潜ったのである。

「……おや、こんにちは」

 窓のない部屋には二人居た。二人とも綺麗な顔をしていて、そして綺麗な金糸を揺らしていた。手前に座っていた青年が振り向いて柔らかく微笑む。明らかに青年はわたしと同年代だった。わたしは部屋の中には父一人がどっかり立っているものだと思い込んでいたので間抜けにも固まってしまう。いや、誰。

「え……っと、こんにちは、なまえです」

 混乱しながらもわたしは思わずそう返してしまった。彼の物腰の柔らかさの中に潜む、有無を言わせない何かを感じたからかもしれなかった。母は、奥に座っている方の男へと駆け寄っていく。「DIO様」と恍惚と名を呼んで倒れこむ母の顔は歓喜に染まっていた。つまりこの男がわたしの父親ということである。いや、DIOサマて。様付けって。しかし、母の評していたように「彫刻のような顔と肉体」というのは合っている。むしろその身体はあまりにも人間離れしているように感じられた。
わたしがどうして良いか分からずに、入り口の前で突っ立っていると、青年が近寄ってきて、わたしの顔をそっと覗き込んだ。優しく手をとられて、わたしはぎょっとする。なんだこの男。
 父親らしき男は母の名を呼んでいる。完全に二人の世界なのかもしれない。

「えっと……」
「ジョルノ・ジョバァーナです」
「ジョルノさんは、えっと……その、関係性的には?」

 父に目を向ける勇気が出ずに、わたしはそう言って、とりあえず笑った。ジョルノは一瞬目を見開いたけれど、すぐに大人びた笑みを浮かべて口を開いた。

「君の異母弟、というやつですかね」
「いっ…………」

 絶句。というやつである。
 なんてことない風に言ってのけたジョルノは「知りませんでしたか」なんて言いながら笑っていてわたしは戦慄した。
 母よ、あなたの愛している男は、やばいことをやらかした上に複数の女と関係を持つ男ということですか。
 微妙な顔をしているわたしに気づいたのだろう、ジョルノは安心させるように優しい声色で「君のお母様は御存じのはずですよ」と笑った。いやむしろ安心できないんですけど。

「なまえ」

 名前を呼ばれた。母が、うっとりとした顔で父らしき男に凭れ掛かりこちらを手招いていた。わたしは正直一歩も近づきたくなかったし、目にも入れたくなかったが我慢した。誰が好き好んで母が初めましての男と並んでいる姿を見るだろうか。我慢したのは、全ては母が好きで大切だからだ。

「……ふん、」

 DIOサマはわたしを頭のてっぺんからつま先まで見つめて、少し鼻で笑った。

「スタンドは?」
「すた……?」
「ほら、出来るようになったでしょう?」

 母が嬉しそうにそう言った。わたしは少し考えてやっとそれがわたしに取り付いた悪霊を指すのではないかと思い至った。数週間前からわたしに絡みつくようになったそれについて、信じてもらえないだろうと思いながらも話した時、母は確か、これ以上無いほどに喜んだのだ。
 わたしはそっと手をあげて、手に絡みつく茨を見せた。母は嬉しそうだった。母には見えない筈なのに、心の底から嬉しそうに微笑んでいた。どうしてかわからないけれど、DIOサマは見えているようだった。そうして傍に居たジョルノにも。

「能力は?」
「はい?」
「予知ですわ、DIO様」

 わたしが顔を歪めたのに、母は気づく素振りも無い。DIOサマはやっと興味深そうに表情を緩めた。
 予知なんて、大それたものではなかった。ただ、ほんの数秒先の未来を、見ることができるだけだ。しかも外れることのほうが多かった。けれどそれを言ったら母が悲しみそうだったので黙っていた。

「よく私の娘を産んでくれた」

 DIOサマはそう言って、母の頭をゆっくりと撫でつけた。その瞳にはどこか情のようなものが感じられて、ああ、母のことを愛してるのは本当なのかもしれないな、とぼんやり思った。まあ、そこだけは認めてもいいかもしれない。正直わたしはあんまり好きになれそうにもないけど。
 そう考えて、疲れやらなんやらで笑うわたしは、この後吸血鬼やらスタンドやら、また他の大量の異母兄弟の存在や、またジョルノがギャングのボスをやってブイブイ言わせてるなんてことを聞いて卒倒する未来を知らない。予知能力なんて、名前だけは大したものだがまったく使い物にならないのである。


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