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72


 破面は、仮面を外すことで、虚と死神の力を手にしている。これまでは未完成で、数だって少なく、わたしも未だかつて出会ったことは無かった。
 「崩玉」を手にした藍染が接触したことで、今まで未完成だった破面が成体となったのだろう。その反応が観測されたのはつい先日のことで、一護が戦ったのもその「成体」の破面で間違いない。
 最初は藍染が動きを見せるまで静観するつもりでいた尸魂界も、彼の行動の早さに動かざるを得なくなった。

「……そこで急遽選抜されたのが俺達だ」

 一護は真面目な顔で話を聞いている。破面の説明をしていた阿散井は、この選抜された面々の経緯について説明し始めた。
 一護との近しさからルキアちゃん、彼女との繋がりから阿散井、そして戦闘員として一角。

「……そしたら弓親さんが僕も絶対行くって言い出して、もちろん行くよねって誘われた睦さんが即答して、騒ぎを聞きつけた乱菊さんが面白そうだからって行きたがって……乱菊さんがどーしても行くって聞かないもんだから日番谷隊長が引率として仕方なく……って感じだな」
「ピクニックかよ」

 うん、そう言われても仕方ないくらいには当初よりも大所帯だ。

「……ともかく、てめーは確実にその藍染に目ェつけられてるってことだ、黒崎一護」

 気づけば窓に座って、日番谷隊長が話を引き継いでいた。

 破面化させるにあたって、戦争を起こすつもりであれば、その対象はギリアン以上に限られる。
 一護は大虚に存在する三つの階級を知らないらしく、僅かに目を見開いた。死神でだって、この階級をきちんと把握している者はもしかすれば少ないかもしれない。ギリアンなら、大虚として教本にその姿が載っているからどの死神も周知しているけれど、その上のアジューカス、そしてヴァストローデともなると、そもそも殆ど観測されていない。ヴァストローデは、数体程度だろうとされているけれど、それも言われているだけだ。

「もし現時点で藍染の下にこのヴァストローデ級が十体以上いたら、」

 尸魂界は終わりだ。日番谷隊長ははっきりと、そう言い切った。


△△△


「へえ、義魂丸かあ」

 乱菊さんと阿散井と、さっきのライオンのぬいぐるみを取り囲む。
さっきまで喋ったり動いたりしていたそれはもう動かず、阿散井の腕の中でだらんとしていて、もう一方の阿散井の手の中には飴玉より小さい球体、義魂丸が握られている。これがぬいぐるみに入っていたから動いて喋っていたらしい。開発局の技術力にちょっとゾッとした。
 完全にただのぬいぐるみになったそれを手の中で回したり振ったりしてみたけれど、やっぱりただのぬいぐるみだ。

「なあ、お前らいつ帰んだよ」
「何言ってんだ、帰んねえよ。戦いが終わるまではコッチに居るぜ」
「居るぜ……って……」

 一護が痺れを切らしたように言うが、帰る予定はない。「言っとくけどウチにはこんな人数泊めるスペース無えかんな!」と言われてしまって、はた、と寝る場所を考えていなかったことに気づいた。なんだったら、当たり前に一護に厄介になろうとしていたのだけれど。
 わたしと同じことを考えていたのか、乱菊さんから「えー!」と非難の声があがった。

「あたしもダメ?」
「う……ええ?! いやフツーに考えたらあんたが一番ダメだろ!」
「わたしは?」
「ダメだっつってんだろ!」

 ルキアちゃんが暫く滞在したと言うのだからいいじゃないか、なんて思ったけれどにべもなく切り捨てられてしまった。勢いよく拒否する一護に、乱菊さんが何を思ったのか暫く黙り込むと、自分の制服のボタンをぷち、と一つ外す。

「ぅおおおッ?! な、何してんだコラ! ボタン一個外してもダメなもんはダメだ!」

 乱菊さんは慌てふためいている一護の前で、僅かにスカートを上げ始めていた。完全に揶揄うモードに入ったらしい。一護があんまりにも可愛らしい反応をするから面白くなってきたのだろう。
 一護が掌で顔を覆ってはいるものの、しっかりと開いた指の隙間から凝視しているのが見えて、思わず吹き出した。

「ちょっと睦、何あんた呑気に笑ってんの、あんたもやんのよ」
「ええー……」
「一護にはこれやっときゃあいけるいける」
「聞こえてんぞコラ!」

 乱菊さんにせっつかれて仕方なくボタンを一個外したら、「ぅおおおおおッ?!」と一護が悲鳴を上げる。

「何バカ正直に外してんだあんた! アホか?!」

 アホって。大体まだ上から二個目のボタンだ。これくらい今の現世の子は開けているだろうに。乱菊さんはにまにま笑って「もっとやんなさい、ガーっと」なんて焚きつけ始め、一護がそれに「やめろ! この人ホントにやるぞ!」なんて叫びながら、また顔を覆った。ちなみに隙間から未だ目は合っている。

「いや、わたしだってボタン三つくらいは外せ……」
「何張り合ってんだ、アホか」
「みっともないから閉めなよ」

 三つ目を外そうと指をかけたらすぐさま一角の手刀が落ちた。なんだか現世に来てからというもの頭を叩かれてばかりな気がする。弓親まで呆れた顔して「みっともない」とまで言うので、そのまま仕方なく制服にかけた手を外した。


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