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※軽く台詞のネタバレ有


「なまえ、ここの骨格、めっちゃキレイ、だ、な」
「……え」

 そう言いながら指先で軽く撫ぜられて、ぽけ、とした。唖然とした、というと少し大袈裟で、そう、なんというか、予想外、という感じ。いっそ恍惚として呟かれた言葉にわたしは暫く逡巡して、そうしてやっと間抜けに「こっかく」と聞き返した。
 左右田は嬉しそうに頷いて、「この鎖骨んとこ、めちゃくちゃ可愛い」と目を細めてみせた。

「さこつ?」
「うん」

 頬を染め、目を蕩けさせている左右田は、可愛い。わたしはそう思う。それと同じようなベクトルで、彼はわたしの骨格を「可愛い」と評したのだろうか。骨格を褒められたのは初めてで、わたしは正直戸惑った。
 左右田は下心が分かりやすい癖に、意外と奥手なところもあるけれど、照れながらもきちんと「可愛い」「好きだ」と一つ一つ言葉にしてくれる人だ。最近はどうやら、機嫌を取るためにそんな調子の良い言葉たちを零すことを覚えたみたいだけれど、それでも本心からくる言葉だと知っていた。毎回毎回、どうにもくすぐったいからだ。だからきっと今の言葉は本心だったのだろう。
 ベッドの上で向かい合いながら、暫く間が生まれていた。そう、今日は所謂、初夜というやつなのかもしれなかった。お互いに緊張しながら、ゆっくり、ともすればのろのろと、キスをした。唇を触れあわせて、ゆっくりと服のボタンを外していった。器用な癖に、ボタンを外すのに手間取って、じれったそうにしている左右田はとても可愛かった。
 そうして、冒頭の台詞。

「なんか俺、気に障ること言った、か?」

 考え始めるとぼんやりしてしまうのは、わたしの悪い癖なのかもしれない。思考の波にさらわれていると、左右田の不安そうな声が耳に届いた。先程までの幸せそうな色は消え失せ、そこには泣き出しそうな悲しみが浮かんでいた。ずっと黙り込んでいるわたしが、不安にさせてしまったのだ。
 左右田の目尻に浮かんだ涙を、そっと、丁寧に指先で拭った。あ、こういう時は目尻にキスでもした方が良かったかな、とまたぼんやり思ったけれど、左右田はほんの少しだけ安心したような顔をした。

「嫌なことなんて、言ってない。嬉しい」
「……ホントか?」

 訝し気な声にちょっとだけ笑ってしまう。彼のこういう心配性で、臆病なところも、わたしは好きだ。わたしが「ちょっとびっくりしただけ」と言うと、左右田は気まずそうに頬をかく。何かを思い出すように視線を落とした彼は、「そういや」と呟いた。

「日向にも、マニアックって、……言われたな」
「ふふ、」

 今度こそ、わたしは声を漏らして笑った。二人でどんな話をしているのかだとか、気になることはあったけれど、頬を引きつらせる日向君の顔が容易に想像できて、面白かった。

「やっぱ変かなァ、」

 そう言いながら、気落ちした風にうなだれている左右田を見ていると途端に愛おしくなって、わたしは腕を伸ばして、ぎゅう、と彼に抱き着いた。「うおっ」と声を漏らすと石のように固まって、可愛いなあ、と胸がきゅうと苦しくなってしまう。左右田がおずおずと、わたしの背へ腕を回す。

「変じゃない。……わたしも、左右田の背中の骨の、ぐりぐりしてるとこ、可愛いなあって、思うよ」
「……可愛いの?」

 手を伸ばして背中の少し出っ張ったところを撫でる。左右田は身じろいで恥ずかしそうにしたけれど、しかしすぐにわたしの言葉に不満そうな顔をした。
 可愛いって言われてむくれるなんて、可愛いなあ。
 言葉にすれば怒られてしまいそうなので、わたしはそう心の中で呟いた。

「じゃあ、カッコイイ、で」
「じゃあって何だよ!」

 むす、と憤慨した顔で、左右田はそうツッコむ。ツッコミポジションが板についてるなあ。
 左右田はわたしが彼の言葉に引いている訳ではないことを察したのか、そのままぎゅう、と腕に力を込めた。

「……ぜんぶ、」
「ん?」
「なまえは全部、可愛いよ」

 ぽつり、と呟かれた若干上ずった声。緊張の滲んだそれが、わたしの耳の辺りで囁かれている。くすぐったくて肩を揺らすと、左右田は笑いながらもっと唇を寄せた。

「笑ったとこも、仕方ないなあって顔も、怒った顔も、声も、身体も、全部、……ぜんぶ、可愛い」
「……骨格も?」
「………………骨格も」

 わたしの言葉に揶揄いが混じっていることに気づいたのか、左右田は寄せていた顔を話して、真っすぐにこちらを見つめた。軽く両方の腕を掴まれて、真剣な瞳がこちらをのぞいている。

「あのなあ、」
「うん?」
「俺は好きな子の……骨格とか、出っ張ったとことか、見るのが好きなだけで、骨格で好きになるわけじゃねえぞ?」

 大真面目な顔をしてそう言った左右田が面白くて思わず吹き出すと、彼は不満気に顔を顰めた。
 変な感じだ。ベッドで向かい合っていた初めの時は、緊張して、ほんの少しだけ怖かった。進んでしまうことが怖かったのか、未知のものが怖かったのか、自分が怖かったのか、今ではよく分からないけど。なんだか今は、胸の中が愛おしさで一杯になっていて、指先を痺れさせていた緊張も、背中を少しだけ凍えさせる恐怖も、感じなかった。左右田が可愛くて、好きだからだ。だから、全然怖くなかった。

「……なまえ?」
「んふふ、分かってるってば」

 念を押すように名前を呼ぶこの人が好きだなあと思う。

「大丈夫。……わたしも、骨のぐりぐりしたとこは、左右田のしか可愛いなあって思わないから」
「暫くこのネタで弄る気だろ……」
「ほんとなのに」
「へいへい」

 流すように受け応える左右田が、嬉しそうな顔をしていることに、気づいた。自分だけだと、そう言われたのが嬉しかったのだろうな、とぼんやり思って。また可愛いなあと一人笑った。
 「好きだよ、左右田」そう言って、わたしは顔を寄せた。触れあった唇は熱い。左右田はぽかんと口を開けて暫く呆けた後、そっと確かめるように指先で自分の唇に触れた。
 ほんとう、可愛い人だ。