×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




2020 クリスマス

石畳に薄く雪が広がっている。昨日のうちに雪が降ったのだろうか。コートに腕を通しながらぼうっと外を眺めていると、ふわりと、首もとを温かさが覆う。目を向けるとポルナレフが悪戯っぽい顔でこちらを見下ろしていた。優しく巻かれたマフラーが、段々とわたしの体温を上げていく。

「なまえ、準備できたか?」
「うん、大丈夫」

鞄の中身をもう一度確認して、わたしはこくりと頷いた。ポルナレフはわたしを頭のてっぺんから爪先までゆっくり見つめた後、嬉しそうに笑って優しく髪を撫でる。

「今日も可愛いな」
「朝起きた時も言われた」
「あまりに可愛いから何度でも言いたくなっちまうんだよ」

可愛い、と言われるのはとても嬉しいけれど、心臓がぎゅう、と苦しくなるので少し苦手だ。かと言って言われないと調子が狂う。なんて習慣を作ってくれたんだ、と文句を言いたくなってしまうくらいだ。
玄関の扉を閉めると、さっと手をとられて優しく握られた。そこで手袋を忘れたことに気づいたけれど、ポルナレフが握った手をポケットに一緒に入れてくれたので、知らないフリをしてそのままでいた。

クリスマスの前の夜、クリスマスマーケットへ二人で買い物に行くのは毎年の恒例で、わたしはこの時間がとても好きだ。昼ごろから様々な店が出ているけれど、わたしは夜に行くのが気に入っている。店の前のオレンジの照明が淡く暖かな列を作っているのが、とてもうきうきするのだ。
小さな広場には、いくつもの店がずらりと商品を並べていた。まずはツリーに飾る新しいオーナメントを探すのが、いつもの流れ。モミの木は、数日前に準備をした。部屋に置かれたそれを思い浮かべながら、一つ一つの飾りを覗き込む。

「このトナカイ可愛い!」
「こっちのジンジャーブレッドマンは?」
「か、可愛い……!」

可愛いらしいオーナメントの数々に目線をさ迷わせながら、お互いに好きな物を見せあっていく。雪の結晶、小さな天使、サンタクロース、ベル、きらきらと光る星。きっと今までよりも可愛くて、綺麗で、立派なクリスマスツリーになる。
オーナメントを選び終えたら、屋台でホットワインを買った。オレンジピールやナツメグ、シナモンと砂糖がたっぷり入ったワインが、冷えた体をほっと温めてくれるのだ。

「寒くない?」
「うん。……ポルナレフは?」
「なまえの手を握っていたら寒くないな」

ホットワインにゆっくり口をつけると、ほんの少し、きゅ、と手に力を込められる。手から伝わる温もりが心地良い。ワインを片手に、今度はディナーの買い物を。ゆったりと、なんでもない話をしながら店を見て回る。

「ブレデル、買って帰るだろう?」

ポルナレフが優しく目を細めて手を引いてくれた。クリスマスのクッキーであるブレデルは、毎年買うものの一つだ。スタンダードな六角形の星型から、渦巻きだったり、4角だったり。沢山の形や味があってわくわくしてしまう。他にもおつまみになりそうなチーズだとか、パンに塗ったら美味しそうなジャム、お馴染みのパン・デピスも食べたくなってしまう。

すっかりお店を見て周り、荷物も多くなってきた。といってもポルナレフが殆ど軽々と持ってしまうので、わたしの腕には小さなブレデルの入った袋だけ。

「あそこも見ていこうぜ?」

もう帰ろうか、というところでポルナレフが少し先の店に目を向けた。そこは可愛いらしい雑貨やアクセサリーが並んでいて、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

「これなんてどう?」

耳のすこしだけひやりとした感触で、ピアスを当てられているのだと気づく。ポルナレフは嬉しそうにあれやこれやと手に取っては、わたしに当てがっている。その度に「可愛い」やら「なまえのために作られたみたいだな」とか小っ恥ずかしい言葉を並べるものだから、わたしはいよいよ何も言えなくなってしまうのだ。

「ちょっと、恥ずかしいんだけど……」
「ホントのことだから仕方ないさ」

揶揄うような視線と、店主の優しい眼差しを感じて思わず視線を逸らした。ポルナレフは「よし」と満足そうな声と共にあっという間に何かを買ってしまった。視線を他所へ向けていたわたしはぽかんとしていたけれど、また彼に腕を引かれて進んでいく。

「何を買ったの」
「帰ったらのお楽しみな」
「ええ……?」

悪戯を企む子供のような瞳が、マーケットの灯りを反射して、きらきら輝いている。わたしはとても愛おしく思って、握る手に力を込めた。それに気づいたのか、強く握り返されることの、何と幸せなことだろう。
帰り道、手に温もりを感じながら、思い浮かべる。買ってきたオーナメントをさっそくモミの木に飾り付けよう。きっと素敵だ。
彼が買ったものは分からないけれど、恐らくわたしの好みのものであるのは間違いない。ポルナレフの趣味は信頼している。わたしもプレゼントを渡すのが楽しみになってきて、マフラーに埋もれながら頬を緩めた。
幸せだなあ。幸せであったかい。

「来年も、また来ようね」

そっと、願いを言葉にのせる。ポルナレフは「もちろん」と少し微笑んだ。