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※req

少し。ほんの少しだけ、リゾットが息を呑んだのを感じて目を向ける。彼は届いた郵便の封を切ろうとしていた所らしかった。机にナイフと中途半端に空けられた手紙が転がっている。

「ちょっと……大丈夫?」

書類を作成する手を止めて呼びかけた。なんともまあ、彼らしくないミスだ。このところ働きずめでよく寝ていないせいで、注意力散漫になっているのだろうか。

「ほら、手、見せて」

近寄って、らしくもなくぼんやりとしている彼の手を取る。指先はぱっくりと切れ、血がぷくりと溢れそうになっていた。確かバッグに絆創膏が入っていたことを思い出し持っていくと、リゾットは未だぼんやりとしている。

「ねえ、……流石に少し寝たら? そのままだと過労で死ぬわよ」
「……ああ……」

ぽつ、と空洞のように零れた言葉にため息を着く。こちらをぼんやりと見つめるリゾットが何を考えているのかは分からない。いや、特に何も考えていないのかもしれないけど。とにかく、休息をとるべきなのは明らかだった。
軽く彼の腕を引っ張ると、案外されるがままに彼は着いてきたので、そのままソファに座らせる。ぽす、とソファに沈みこんだのを確認して、ブランケットを手渡してやった。

「ほら、少しでいいから寝ちゃいなさいよ……何なら膝枕でもする?」
「ああ、頼む……」
「え、」

からかい混じりに言った言葉にこくりと頷いたリゾットに固まる。なんというか、やっぱり疲れておかしくなってしまっているのかも。それとも案外、彼は恋人になった人間とか、身内とかには甘えたになるタイプなのだろうか。そんなプライベートな一面を見てしまっているのかしら。
なんだかしおらしいリーダーを見るのが初めてだったからか、私も楽しくなってきてしまった。

「……ま、いっか。はい、どうぞ」
「……ん、なまえ、」
「ん?」
「お、……やす、み」

呻きだかなんだか分からない声を漏らして、リゾットはそのまま目を閉じた。直ぐに頭の重みを感じて、彼が寝入っていることを悟る。

「……寝顔は案外あどけないのね」

子供のように力の抜けた、なんだか可愛いらしい寝顔を見ていると笑いが込み上げてきてしまう。ふふふ、と声を漏らしながら、ゆっくりと髪を撫でる。

「……あ、」

ふと、彼の指先に目を向けた。そういえば、切った指に絆創膏を貼るのを忘れていた。
私はそっと、慎重に彼の腕をとった。珍しく深く眠っているようだし、こっそりと絆創膏を貼ってしまおう。
そんな風に思いながらそっと手を伸ばすと、なんだか不思議な鳴き声のような音が聞こえてくることに気づいた。

「……ロォォォード」
「……え、」

ぴたり、と固まった。私の視線はリゾットの傷口に吸い寄せられていた。何か、いる。何かが。

「あ、れ、……メタリカ……?」

一瞬身構えたものの、それは紛れもなくリゾットのスタンドだった。今まできちんと視認したことは無かったけれど、この鳴き声のような音は戦闘の中で聞いた事がある。それに、彼の体内に居るというような話とも特徴が一致している。
なんだか恐ろしい能力とは裏腹に可愛いらしいフォルムをしていることが可笑しくて、少し笑ってしまった。リゾットが眠ったことで出てきたのだろうか。若しくは、この傷口のせいなのか。理由はよく分からないけれど、眠っている間に攻撃なんてされてしまっては堪らないので、わたしは取り敢えず両手を挙げた。その一方で、こっそりと自分のスタンドも発現させておく。リゾットが無意識にスタンドを出したとは考えられないし、コントロールできないなんてことある訳は無いけど、用心に越したことはない。

「ロォォォード」

メタリカは相変わらずゆらゆら蠢きながらそんな声を発しているが、私に攻撃してくる様子もないようだった。一先ず腕を下ろしてみるが、大丈夫そうだ。
それにしても、なんというか、

「……結構可愛いわね」

ぽつ、と呟いた声にはこれといった反応を起こさないものの、敵意もこれといって感じない。
寝ぼけてスタンドを出しているってオチだったら面白いな、という考えが頭を過る。いや、私も寝ている間にスタンドを出してたりしたらどうしよう。……大丈夫よね?

「……ロォォォード」

くねくね動く様子がマスコットのようで、私は思わず手を伸ばした。飛び出した鳴き声に一瞬、やってしまったかと身構えるが、メタリカの方も何かをしてくる様子はない。私は恐る恐る指先でメタリカに触れた。

「……そもそも、スタンドには触れないんだった」

すう、と空を切った感触にため息をつく。思わず触ってみたくなってしまったけれど、そういえば、そうだった。少し残念に思いつつ、腕を引く。

「ロォォォード」
「……へっ、?」

ちょん、と離れようとした指先に触れた感覚に目を向けると、メタリカが私の指に擦り寄っていた。いつもと同じ声を漏らしながら、私の指をその頭でなぞっている。スタンドの方からは触れるんだったか、と頭の隅で思いながら、私はその光景に釘付けだった。

「かっ、可愛い……」
「ロォォォード」

いいなあ、リゾット、こんな可愛いスタンドといつも一緒なんて。思わず漏れた言葉にメタリカが呼応するように鳴いている。
私はリゾットが起きるまでの何時間か、そうしてメタリカと遊んで過ごしていた。暗殺業で廃れていた自分の心がこんなところで癒されようとは。
それから時折どうにかしてメタリカと触れ合えないか作戦を練る日が続いたのは秘密にしたいところである。