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ランサー、クー・フーリンは、生粋の女たらしである。可愛いと思う子がいればすぐに声をかける。警戒して逃げてしまう子もいれば、乗り気になってあっという間に携帯の番号を教えてくれるような子もいる。むしろ後者の方が圧倒的に多い。なにせ顔だけは整っている男。女にだらしなく運が非常に悪いことを除けばかなりのイケメン男なのである。ゆえにモテる。それはもう女なんて選び放題なのである。
それなのに

「何故私........」
「ん? どーした」
「いえなんでも。つーか近いんで離れてくれますか?」

街中で偶然に出会ったのが運の尽き。馴れ馴れしくも肩を組んでくる男をあしらいながら考える。何故私。
一応今現在は聖杯戦争が一時休戦中だとはいえ、元はもちろん敵対関係だった筈だ。この男がそういうことを一々考えそうだとも思わないが、これはあまりにもひどい。ほんとに見境なしかこの男。まあ結婚を許してもらうために向かった地で他の女とデキちゃう男なのだか仕方ないか。昔の常識がどんなものかは知らないが、もちろん私的にはアウトだ。現代人にとってはハードな恋愛観である。というかそれにしてもなぜ私。他にももっといるだろ凛ちゃんとか凛ちゃんとか凛ちゃんとか。結構お似合いだと思いますよ。まあ彼女は彼女で衛宮にお熱なんで入る隙間一ミクロンもないですけどね。ガントくらって一発だよさすが幸運E。
はっきりと思い浮かべることのできる結末。呆れと憐れみをのせてランサーにじっとりとした目線を送ると「お? なんだ?」と嬉しそうに返された。なんだそのだらけた顔。腹立つ。

「あなたならその辺の美人といくらでもお茶に行けるでしょう。むしろ行き放題」
「? 俺はお前がいい」
「頭大丈夫ですか?」
「お前かなり辛辣だよな.....」

なに当たり前の顔して「俺はお前がいい」って。バカか。馬鹿なの馬鹿なんですか。顔に手を当てたらちょっと熱かった。ちくしょう。こういう耐性ないのに嘘でも美人とか言うのやめてほしいです切実に。
この男にとっては呼吸と同じように自然に吐き出すことのできるただの冗談だとは分かっていても、そんなことを言われれば多少は揺れる。聖杯を手にするために汗でどろどろになりながら走り回るが私だって腐っても女。少しはきゅんとしてしまうのである。ただし自身のスペックを理解しているので無駄な期待は持たない。流石私。普段から女という女に思わせぶりな衛宮を相手にしているだけある。もうこの鍛え上げられたスルー能力は誰にも止められない。

「まあ冗談はそれほどにしてーー」
「俺は本気だ」

ああああやめてください急に真剣な顔しないでください。馬鹿なの馬鹿なんですか。
だんだんと熱を持ち始めた他でもない自分の顔を自分自身の拳でぶん殴りたいと思っても、実行に移せばただの奇行に走る女だ。我慢しておく。本気にはしていなくともきゅうんと鳴る心臓を握り潰したい。
スルー能力だ。するーすきる。今こそ発動させろ。いつものだよいつもの!居酒屋に入って注文するサラリーマンのごとく内心叫び続ける。
衛宮で養われたこの能力を存分に使え私。
桜並木を歩いていた時頭に乗った花びらを微笑みながらとってくれたと思えば「なまえは…桜が、似合うな。可愛い」と言ったり。少し髪型が崩れると優しく直して、最後に頭を撫でられたり。それによく人の微妙な変化に気づいては声を掛けてくれる。体調悪そうだな、大丈夫か? なんかいいことでもあったのか? そういえば、お前がみたいって言ってた映画のチケット、取れたけどーーーー。
こんなことが続けばきっと誰しもが「脈アリ」というやつなのでは、と思うかもしれない。というか思うのが普通だと思う。女の子だもんね。しかし残念ながらそれは間違いだ。衛宮というやつは誰にでも「そう」だし、こう言ってはなんだが思わせぶりな態度も多い。付き合いも長いわたしはもうそんなこと熟知しているので、この手のものなんておちゃのこさいさい、慣れているのである。
そう、いくらあの天然系ドンファンが誰彼構わず無意識に誘惑スチームをふりかけてこようとも全てかわしてきた私だ。初期は確かにぐらついたけれども。誰にでもやっているんだから、と意識してしまえばなんてことはないのだ。いける。スルーできる。……そう。よく見たらランサーだって別に...別に....かっこいいけども....。男前だし...。いや、私の好みは極々普通の顔立ちで趣味は読書の優しくおとなしめの人のはず。全くもってかすってすらいないじゃないか。それなのに何故こんなにも心臓が。いいやきっと風邪だただの風邪。

「俺は本気だしただのお茶で済ませる気はねえよ」
「うぇっ!?」
「お茶が嫌なら別の場所でもいい」
「いや、だから私なんかじゃなく....もっとほかの....」
「なあに言ってやがる。俺がお前がいいって言ってるんだ」
「私可愛くないですし、それにあー、一応敵だし...」
「敵とか関係ねえ」

そこでいったんランサーは言葉を止めて不思議そうに言った。

「それにお前はかわいいよ」
「はっ!? う、うるさいです......」
「おっ、照れてんのか」
「黙っててくれます?」

けらけらと笑うランサーを睨みつけるとなんだか嬉しそうな顔をされた。実はマゾだったりするのだろうか。そのままランサーはその大きな手を私の頭にぽんと乗せてにっこりと笑った。あ…ちゃんと戦う人の手だ…当たり前だけど…。きゅん。……いやいや待て待てきゅんじゃないでしょ。

「俺に無関心だったアンタがこうも感情をむき出しにしてくれると嬉しいもんだなぁ!」
「別に感情むき出しになんかしてないです!」

ランサーがにやついている。すごく殴り倒したくなる。こうも心臓が煩いとどうにかなりそうだった。
ランサーの手が頭からするすると頬へと移動していく。思っていたよりも優しい手つきに頭がぐるぐると回ってしまう。熱い。顔が、心臓が、身体が、熱い。

「......なら」
「お?」


「まだ昼食食べてないんで、ご飯、食べに行くなら」

結局スルーできなかった。

その時の私は私たちが食事する姿を見て衛宮が発狂することをまだ知らない。