理鶯さんの料理をする姿が好きだ。料理だけではなくて、火を起こしている時なんかを見ているのも、好き。 彼の調理風景を見ているのが好きなんです、とMTCメンバーのおふたりに零したことがあるけれど、まるで珍獣を見るような顔で見られたことは記憶に新しい。
料理をする彼の伸ばした腕のしなやかな筋肉だとか、男の人らしい筋だとか。目の前を見つめる綺麗な横顔と、真剣な瞳だとか。思わずいつも見入ってしまって、ずっと目を向けてしまう。 つまるところ、理鶯さんを見ているのが好きなのかもしれない。
「……退屈ではないか?」
理鶯さんと目が合った。 急に綺麗な瞳に見つめられ、心臓が跳ねる。
「い、いえ。理鶯さんが料理をしているところ、好きなんです」
そう答えると、理鶯さんは嬉しそうに微笑んで、少し離れた所に座っていたわたしの傍に、同じように腰を下ろした。
「いつも熱心に見ているな」
ふ、と笑みを浮かべながらそう言った彼になんとも言えない心地になる。…バレてしまっていた。
「すみません…」 「? 謝ることではない」 「お邪魔じゃ、ないですか?」
理鶯さんは「まさか、」と答えながらわたしの髪に触れた。 丁寧に髪の間を通っていく指の温度が感じられて緊張してしまう。
「いつも、どこを見ているんだ?」 「え、」
顔が熱くなる。本当のことを答えるにはかなり勇気がいるような、気がするのだけれど。
「教えてくれ」
理鶯さんが、黙ったままでいるわたしの耳元に顔を寄せた。低く落ち着いた声が鼓膜を揺らす。 吐息が耳を掠めて肩を震わせたわたしに、理鶯さんは楽しそうに笑った。
「理鶯さんの、腕、とか、綺麗な横顔、とか……見ているのが、好き、なんです」
恥ずかしさからつっかえたわたしに、また「そうか」と笑って、彼はわたしの腕を優しくとった。
「小官も、貴女を見ているのは楽しい」
長い指が、わたしの手首から指先をなぞって、そのまま優しく握られる。掌に感じる熱に緊張して身体が固くなった。視線の先で重なり合ったそれを愛おしげに見つめ、そうして理鶯さんはわたしの瞳を覗き込んだ。
「綺麗な手も、小官を映す瞳も、可愛らしい唇も、全て魅力的だ」
あまりの気恥ずかしさに口を開いたり閉じたりするだけのわたしに、理鶯さんが笑い声を洩らす。 握っていない方の手が伸びてきてするりと首筋をなぞった。なんだか変な気分になってしまいそうで目を逸らす。 すると彼はすぐにわたしの頬に手を添えて自身に向けさせた。真っ直ぐな瞳と目が合って、心臓がとても苦しくなる。 そのまま顔を寄せられたので、わたしは自然と目を閉じた。
「…いいか?」
肩が震えた。今日の彼はなんだか少し意地悪だ。 唇が重なり合う寸前でそう尋ねた彼は、どんな表情をしているのだろう。吐息をすぐ側に感じる。少しでも動いたら触れ合ってしまうけれど、声を出すのが恥ずかしい。 恥ずかしすぎて泣いてしまいそうだ。わたしは思わず目を開いた。 蕩けるような瞳と目が合った。
「貴女のその表情はとてもそそられる」
そう零した彼と唇が合わさる。どうしようもない程に暑くて、わたしは空いた手で彼の服の裾を握った。 また、彼が楽しそうに笑った気配を感じた。
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