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 ハッと、息を飲む音が聞こえた。それはまるで世紀の大発見でもした、そんな風にも聞こえたが、ぼくは知っていた。目の前に座る女は、またしょうもないことを考えているのだと。

「ねえ、このパフェ、すごくない?」

 彼女が、ひっそりと、内緒話をするように声のボリュームを抑えた。掌をそっと口元に添えて、ぼくの方へ顔を寄せる。それでもぼくはスケッチを描く手を止めなかった。一応「何がだい」とだけ返したが、別に興味は無かった。しかし、彼女は構わずに言葉を続ける。

「このパフェ、コーンフレークでちっとも、かさまし、してないの」

 ゆったりとした口調で、大袈裟に、彼女は言ってみせた。ああそうかい、それは良かったじゃあないか。面倒なのでそう返すと、彼女がどこぞの貴族のように、またゆったりと頷いた。

「ええ、本当に。すごい、このパフェは」
「そうかい。すごいね。そのパフェは」
「特にこの真ん中部分。甘すぎないソースが飽きさせなくって感動する」
「そうかい。すごいね」

 返答も一辺倒になるというものだろう。なにせぼくは別に目の前のパフェには全くもって興味が無い。今日だって、彼女がどうしてもと言うので立ち寄ったものの、ぼくは別に近所のカフェで珈琲を飲むだけで満足だ。確かに新しい店を開拓するのは良い。しかし取材の一貫としてだ。落ち着くための場所としては適さない。けれど彼女は気にも留めずにぺらぺらと口を動かしていた。

「パフェの語源ってね、パーフェクトから来てるんだって。完璧、のパーフェクトね」

 観ているだけで口の中が甘ったるくなりそうなパフェの、ゼリー部分にやっと到達した彼女が、得意気に言う。口の端にイチゴのクリームがついている。間抜けだ。

「完璧だよ、完璧。完璧なデザートなの、パフェは。その中でもかさまししてないこのパフェは、完璧の中でも完璧」

 自分のお眼鏡にかなうパフェが見つかって、彼女は大層ご満悦らしい。しまりの無い顔で、たわいない話を楽しそうに語る。どうしてパフェの話だけでここまで長いこと飽きずに話せるのだろうか。いっそ奇妙だ。まあ、彼女の特性なのかもしれない。たわいもないことを、心底楽しそうに話せるっていうのが。
ぼくの描くスケッチの中では、緩んだ顔でパフェを頬張る彼女が口の端にクリームをつけていた。やっぱり間抜けだ。思わず笑うと、彼女は「露伴も食べる?」なんて的外れなことを言った。