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「愛している」

 わたしは一瞬何を言われたのかが理解できなくて、ほんの少しの間完全に動きを止めた。ゆっくりと顔をあげると、その声の持ち主が緊張した面持ちで立っている。

「えっと、」

 とりあえず何か言わなくては。そう思って、声を出してみたけれど、意味を伴った言葉にはなってくれなかった。わたしは戸惑っていたし、それよりも驚いていたのだ。
 アヴドゥルさんが、ほんの少しだけ控えめに、唇を舐めた。ああ、きっと緊張しているんだな。どこかで冷静な自分がそう考えている。

「もう一回、」
「…………は、」
「もう一回、お願いしてもいいですか」

 何言ってるんだろ、わたし。何か言わなくては、そう考えていたら咄嗟に「もう一回」なんて口走っていて。やってしまった、と心の中でわたしが泣き喚く。慌てて下を向いた。もっと他に、言うことがある筈でしょう。
 アヴドゥルさんが、いったいどんな顔をしているのか分からなくて、わたしは恐る恐る、盗み見るように、彼の顔を見上げた。困った顔や、戸惑った顔をしているだろうな。そう思っていたのに、彼の表情はどこまでも穏やかで温かかった。

「愛しているんだ、君を」

 じわりと、緩やかで、それなのにしっかりとした言葉がわたしの耳を撫でている。音がゆったりと鼓膜に侵入して、そうしてわたしの体温をあげていく。心臓が、怖いくらいに苦しかった。それなのに、幸せだと、そう思った。

「わたしも、です」
「……ああ、」
「わたしも、あいして、ます」

 言い慣れず、拙い響きだった。
それなのに、アヴドゥルさんは目を細めて、ほんとうに愛おしそうに、わたしを見つめている。