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 わたしは荷物持ちのつもりで着いてきた。その筈なのだけれど。

「……あの、由花子ちゃん?」
「あんまりこの形のスカートは似合わないわね」

 こちらの言葉など全く聞こえていない様子で、彼女はわたしに「次」とだけ言うとカーテンを閉めるように指示をした。
 試着室の中、呆然とした顔のわたしと見つめ合う。放課後に「買い物に付き合って」と言われ、意気揚々と着いてくれば試着室に押し込められて、かれこれ一時間は服を取っ替え引っ替えしている。由花子ちゃんはわたしが着替えたのを確認しては「似合う」か「似合わない」かをきっぱり断言していった。

「なんでこんなことに……」
「着替え終わった?」
「ま、まだです」
「早く!」
「はっ、はい! すみません!」

 カーテンの向こうから投げられた言葉に慌てて次の服に着替える。ハンガーに掛けられたワンピースを引っ掴んで、頭から被った。

「お待たせしてすみません! どうぞご覧くださいませ!」

 美人を怒らせると恐ろしいのは、身をもって体験してきている。カーテンを勢いよく開けると、呆れた顔をした由花子ちゃんが近づいてきた。

「裾がめくれてる」

 彼女は指先でそっとわたしの裾を直すと、数歩後ろへ下がり、まじまじとわたしの姿を確認した。

「悪くないわ」
「ほ、本当?」
「嘘なんて言わないわよ」

 少し考え込んだ由花子ちゃんは、側にいた店員の女性に「これの色違いは?」と尋ねている。彼女の上々の反応を見てやっと解放されると思っていたわたしは、その様子を見て少し項垂れた。

「次はコレ」
「仰せのままに……」

 ワンピースを抱え直し、とぼとぼと試着室へ戻った。新しく渡されたワンピースは、ライトグリーンの綺麗な色をしている。

「……どう、かな」

 今度は裾が捲れていないかしっかりと確認した後、カーテンを開けて顔を覗かせたわたしに、由花子ちゃんは満足そうに頷いた。

「似合ってるわ」
「ほ、ほんと?」
「ええ」

 由花子ちゃんはわたしの手を引いて、「次はアクセサリーね」と楽しそうに笑う。わたしはもう正直疲れ切っていたけれど、彼女の笑顔を見ていたらなんだかそんなことどうでもよくなってしまって、二人並んで次の店へ足を進める。

「由花子ちゃん、」
「なに?」
「どうして、こんなに熱心に選んでくれるの?」

 わたしの服とアクセサリーなのに。
 今まで何度か二人でお出かけしたことはあったけど、こうして彼女に選んでもらったのは初めてだった。
 由花子ちゃんはふう、とため息をついて、わたしの買ったばかりのワンピースに目を向けた。

「好きな人の為に可愛くなりたい、なんて言われたら、仕方ないじゃない」

 その言葉に、わたしはぽかんと間抜けに口を開けてしまう。わたしがふと漏らした「好きな人にどうしたら振り向いてもらえるのかな」という言葉に、由花子ちゃんがここまでよくしてくれると思わなかったのだ。
 呆けたままでいると、由花子ちゃんは柔らかく目を細めてこちらに目を向けた。その表情がすごく綺麗で心臓がきゅう、と少しむず痒くなる。なんだか、康一君が少し羨ましくなった。ああ、でも、こうやって服を一緒に買いにお出かけできるのは、わたしの特権なのかしら。それはそれで、嬉しいかもしれない。

「……なんか、自信が出てきた」

 由花子ちゃんに選んでもらった服を着ていたら背筋がぴんと伸びて、自然と笑顔になれる。心の底からほっとするような、わくわくするような。
 わたしの言葉に、由花子ちゃんは「当たり前でしょう」となんてことなさそうに言う。

「貴女に一番似合うものを選んだんだもの」

 ああ、そんな風に言われたら、だらしなく頬が緩んでしまう。今かなり幸せだ。由花子ちゃんはそんな様子のわたしに呆れた顔をして、「まだ終わりじゃあないのよ」と手を引いた。大好きな彼女が選んでくれるアクセサリーなのだ。きっと素敵なものを選んでくれるに違いない。