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 わたしを呼ぶ穏やかな声が、鼓膜を揺らす。暖かな春の湖畔のように澄んだその声は、わたしの心にそっと溶け込んで、次第にじわりと暖める。ぼんやりとまだ眠っていたいのに、なんて思いながら唸っていたけれど、わたしの髪に優しく触れる指先を感じて、ゆっくりと瞳を開く。光る朝日の中で、彼が笑っている。

「よく眠ってたな」

 ぼやけた視界の中で、ブチャラティがこちらを覗き込んで、そっと目を細めた。朝日を反射してきらきらと光る澄んだ瞳をもっと見ていたくて、思わず彼に伸ばした手を優しく握りこまれる。わたしよりも大きな掌にすっぽりと包み込まれるのはなんだか落ち着いて、また瞳を閉じてしまいそうになるけれど、彼は楽しそうに「もう起きる時間だろう?」と笑った。

「今日はのんびりしようって言ってたのに」

 わたしが朝に弱いのを知ってるんだから、甘やかしてくれてもいいんじゃない。そう不満気な声を出してみたけれど、ブチャラティは意に介さずわたしの髪を撫でたり指に絡ませたりしている。

「折角だからカフェでモーニングでもどうかと思ったんだが」
「もーにんぐ……」
「ブリオッシュでも買ってこようか」

 ブリオッシュという言葉に、思わず反応してしまった。ブリオッシュとコーヒーのシンプルな朝食を思い浮かべて、段々とお腹が空いてくる。「食べたい」と呟くわたしに、ブチャラティがしたり顔で笑っていて、もしや計算のうちだったのではと気づいても、もうわたしは二度寝をする気も、一人でここで待つ気も無くなってしまっていた。
 のそりと起き上がって、ブチャラティの頬に顔を寄せる。彼は擽ったそうに身を捩って、そうしてわたしの頬に優しく唇を落とした。

「……ブチャラティ、寝癖ついてる」

 少し跳ねた毛先を見つけて、指先で触れると、きょと、と目を丸めた彼が今度はわたしの髪に触れた。

「君もな」

 きょとんとした顔で向かい合う。次第に面白くなってきて、お互いに寝癖に触れながら暫くの間笑っていた。
 笑い疲れてしまったら、ゆっくりお互いの寝癖を直そう。お揃いだから直すのが勿体ないくらいだけど。そうしたら二人で手を繋ぎながら少し遅いモーニングをとりにカフェにでも足を伸ばして、ブリオッシュと甘いコーヒーに舌鼓を打てばいい。