癪に障る奴だな、と思う。 年上に向かっていつも生意気な口ばかりきくし、その上いつだって図々しい。突っかかってくるときは喧しいし。 可愛いとこなんてこれっぽっちもないのにな、そんなことをずっと考えていたら唇にぴり、とした感覚が走って思わず顔を歪めた。
「いっ……なにするんだよ」 「うるさい…………しつこい」
眉間にめいっぱいの皺をつくって、女がこちらを見上げている。女は乱暴に服の袖で口元を拭ったあと、ふい、と目を逸らした。
「…………これやだ」 「はァ?」 「………アンタのちゅー、しつこい」
ぽつ、とそんな失礼な言葉を落として女はさっさと背を向けようとする。ぼくは信じられない心地で女の腕を掴んだ。
「おいおい、元はと言えばキミがキスをせがんできたんだぜ? ……しつこいってなんだよ」 「なんか、露伴のキスねちっこい」
憮然とした態度のまま女がずっとむすりとした表情を崩さないことに苛立って、無理矢理噛み付いてやろうかという思いがよぎる。しかし掴んだ腕から伝わる体温がいつもより高いことに気づいて思いとどまった。
「……なんだよ、照れてるだけなんじゃあないか」
ぼくの言葉にぱっと振り返った女の顔は結構見もので、焦っているのが随分と分かりやすかった。普段は生意気で図々しいのに、案外可愛いところもあるじゃあないか。少し得意な気持ちになって、仕方が無いので優しく手を引いてやった。
「……仕方ないからもう一度してやろうか?」 「い、……いいっ!」
上がった抗議の声は無視をして、唇を合わせる。先程はちょっと舌をいれただけで噛まれてしまったので、優しく触れ合うだけにしてやった。かなり気を使ってやってるというのに、女は依然として顔を顰めていてまた苛立つ。 軽く虐めてやるつもりで唇を舐めるとびくりと震えるのが面白かった。
「……はは、」
普段は生意気な口ばかりで、図々しくて、年上に対する態度がなっちゃいない。けど、このキスは案外嫌いじゃあない。少し震える手も、塞がっているから文句を言えない口も、惚けたような瞳も。そうだな、生意気な君も、キスに耽る表情は可愛いんじゃあないのか。
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