料理を作って待っていると、玄関が開く音が聞こえた。彼が来たのだ。手が離せないので少し大きめの声で「おかえり」と声をかければ、「ただいま」の声とすぐに背中に重みを感じた。
「今日は独歩君甘えたさんの日だねえ」
そう揶揄うと、案外素直に頷く気配がしたので一旦コンロの火を止めて、正面から抱きしめる。
「お疲れ様」 「ん…」
優しく頭を撫でると嬉しそうに擦り寄って来て大変可愛らしい。しかしそのまま首筋や鼻先にキスを落とされるのは擽ったかった。腰をゆるやかになぞり出した手を軽く叩いて「ご飯できたよ〜」と声をかけても、わたしに凭れたまま「んー」という音を発するばかり。
「ご飯食べたくない?」 「いや…食べる」 「無理してない?」 「めっちゃ食いてえ…」 「じゃあ食べよう」
その言葉にまた「んー」と呻き声を零した彼は、わたしの肩に額をすりつけている。
「ご飯食べたらいくらでもイチャイチャするから〜」
冗談交じりの間延びした声でそう言うと、ピタリと彼は動きを止めて、こちらをじっと見つめていた。
「…え、何?」 「…言質」 「はい?」 「言質取ったからな?」
薄く笑った彼の行動はもしや全て計算の内だったりするのだろうか。深くは考えないことにする。
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