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偶に、野良猫を家に泊める。
真冬の公園で縮こまっていたのを家に招き入れるだなんて今考えれば正気の沙汰じゃないが、初めて見た時に放っておけなかったのだから仕方ない。酒に酔っていたから、とか。猫が案外綺麗な顔をしてたから、とか。色々後から考えてみたけれど、理由はどれもしょうもないものだった。

初めて家に入れた時は、玄関までだった。流石にそれより上にあげる勇気は出なくて、寝袋を突き出して「悪いけどそこで寝て」と言うと、確か間抜けにぽけっとしていたのだった。今思うと、野良猫は案外人馴れしていて、毎日同じような暮らしをしている。野宿したり、人の家を寝床にしたり。だからその日は当然リビングに通されると考えていたのかもしれない。一瞬変な顔をしていたけれど、野良猫はすぐに寝袋を受け取ってすやすや玄関で眠っていたので拍子抜けだった。
しかし野良猫はその後も、何度も何度もわたしの家に現れた。そうして心得たように寝袋にくるまって眠っていた。
そうしえいつの間にか、偶に現れる野良猫の眠る場所は、段々と変わっていった。玄関から、1段上へ。そこから廊下へ。そうしてリビングの床、ソファ、そうして今、寝室のベッドで眠っているのだから笑えない。

「うっ……」

ずし、と重みを感じて目を開けた。わたしの背中には野良猫がぴったりとくっついていて、があがあ、いびきをかいている。ぐるぐる喉を鳴らしてくれたらまだ可愛いのになんて思いながら、わたしは野良猫の長い腕をどかした。
変だよな、と思う。わたしはこの野良猫が「だいす」という名前であることと、図々しいこと、ギャンブルが好きなことくらいしか知らないのだ。
ずうっと、変だ。知らない人を家に入れたのも、それから何度も泊めているのも、今同じベッドで寝ているのも。変なことばかりだ。でも初めてこの野良猫を玄関に転がして朝起きた時、差し出されたインスタントのスープを見て目を輝かせていたのを見てから、わたしはもう完全に絆されてしまっていたのだった。

わたしの家に野良猫が来るのは一週間ぶりだった。この自由気ままな野良猫は、昨日はどこで寝ていたのだろう。きっとわたし以外にも何人もの人間が絆されていて、多分沢山甘やかされているのだろうと思う。この猫は人の懐に入るのが上手い。だからか、いつの間にか布団にまで入り込む。
カーテンの隙間から日が差し込んでいる。わたしは野良猫を起こさないようにそっとベッドを抜け出した。可愛い野良猫に温かいスープでもいれてあげようではないか。「あったけえ」そう言って笑う悔しいけど可愛らしい顔を脳裏に描きながら。