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ナイフを使っている時に気が逸れてしまって、指先を少し切ってしまった。幸いにも傷口は浅い。…このぴりぴりする痛みはあまり好きではないのだけれど。

「やっちゃった……」

この程度なら放置していればすぐ治るだろう。そう思い血を洗い流そうと立ち上がると、腕をナランチャに掴まれた。

「そ、そこにいろよ! 座っててくれ!」

焦ったように早口でそう言うと、彼は小走りで離れていく。
再び戻ってきた彼の手には救急箱が握られていた。彼の顔はまるで大怪我をした人間を見ているように真っ青だ。

「お、大袈裟じゃない…?」
「そんなことない」

私の言葉にむすりとしたナランチャは、救急箱から包帯やらを取り出して、私の手を取った。
そのまま包帯をぐるぐると指に巻つけようとした彼に思わず「ストップ」と声をかける。

「これくらいの傷なら絆創膏くらいで充分だよ、ありがとう」
「ご…ごめん」

一旦落ち着いたのか、今度は救急箱から消毒液や脱脂綿、絆創膏を取り出した彼に思わず笑ってしまった。
笑う私に恥ずかしくなったのか、ナランチャは少しむくれている。

「笑うなよ…」
「だって、そんなに焦らなくたって良いのに」
「……好きな女の子には、怪我して欲しくないだろ」

そっぽを向きながらそう言ったナランチャが可愛いらしくてまた笑ってしまう。
彼は絆創膏を丁寧に指に巻き付けると、眉を下げて私の顔を見つめた。

「気をつけてくれよ、…すっげー心配する」
「うん、ごめんね。ありがとう」

きっと、彼はこんな些細な傷なんて気にも止まらない程の怪我を沢山したことがあるし、これからもするのだと思う。
それなのに私の指先に触れて心配そうにしている彼が愛おしくて、思わず抱きしめた。

「ナランチャも、気をつけてね」
「…うん、」

私だって、すっごく心配する。そう付け加えて少し腕に力を込めると、今度はナランチャが嬉しそうに笑った。