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子供の直感とは侮れないものだ。現に幼かった私はこの愉悦男の危険さと不気味さをいち早く察知し、出合って数秒で握手を求めたその手に噛み付いたというのだから子供の直感はいやはや天晴れなものである。その姿を見た英雄王は爆笑し終いには私を猿と呼ぶようになったが。十年経った今でもその呼び名は続いている。かなり不服である。
実のところ私自身はその時のことをはっきりとは覚えていない。10年も前の話だ、覚えていないことになんら不思議はない。だから今でもあの話でいじられようとも私は屈しない。
子供の直感とは侮れないものだ。それなのに子供というものは一度警戒を解いてさえしまえばその後は思い通り。神父の甘言にふらふら踊らされた私は何故かもう10年もこの二人と暮らしている。



「セイハイセンソウ、ねえ」

神父に話があると言われたのはつい一時間程前のことだ。何故か隣に並んで彼は「セイハイセンソウ」という戦争の概要をざっくりと話し始めた。セイハイセンソウ、まるで中学二年生の男子が考えたようなお話である。まあ、魔術に関しては信じよう。しかし百歩譲って、だ。なにせ魔術という言葉がなければ英雄王のなんでも出てくる四次元ポケットは説明できない。この十年「まあ王様だし」という一言ですべて片付けていた自分が恥ずかしい。しかも英雄王はマジで英雄王だった。ギルガメッシュって私でも知ってる.....。それを聞いた時は流石に暫しうなだれていた。何も考えずにただのボンボンだと思っていた。バカか。

「なんで今まで隠してたの」
「お前のその反応が見たかったからだ」
「くそが........」

様々なショックで身も心も貫かれ、地に伏せる私を見てにやつく神父はどこからどう見ても愉悦っていた。私がこうして絶望する姿を見たいがためにこんな重要そうなことを言わないだなんて。知ってはいたが最低である。知ってはいたが。

「じゃあ、なんで今日話したの」
「始まるからだ」
「……は?」
「聖杯戦争が始まるからだ」

セイハイセンソウガハジマル? オウムのように復唱した私にまた神父の口元が歪んだ。

「戦争始まるの? いつから!」
「おおよそ明日からだな」
「あ、……!?」

明日って。その上あまりにも軽い。明日から戦争はじまるよ、ってなんだ。連ドラが始まるみたいなノリで言いやがった、この男。私悲痛な叫びにすら愉悦を感じている神父はこの上なく楽しそうに笑っている。
戦争が始まる。しかも何でも願いを叶える杯をかけて魔法使いが戦う。明日から。スケールが大きすぎてもう訳がわからない。

「私はなんかしなくちゃいけないの.....?」
「いいや、普段通りの生活をしていればいい」
「明日から戦争始まるのに?」
「ああ」

適当すぎる。その上軽すぎる。普段通りの生活をしろってなんだ。難易度が高すぎる。もう知ってしまったのに。

「でもこの教会が監督するんでしょ? セイハイセンソウを」
「そうだ」
「それなのにここに住む私がなにもしないって......」
「お前にできることはないな」
「そりゃあそーですけども!!」


そんな感じで聖杯戦争開幕を知らされたjkの話。冬木の大災害で路頭に迷い、教会に引き取られている。何故か魔力がギルガメッシュによく馴染み連れてこられたが、何故か何も教えられず、危害も与えられず、ぬくぬくと教会で育った。綺礼に不穏なものを感じてはいたものの、今まで彼らが行ってきた所業は知りもしない。
王様は金持ちのぼんぼんだと思っていた。蔵もなんでもでてくる不思議だなあくらいに思っていた。王様そっくりの子供と何度も遊んでいるが他人の空似だと思っている。
聖杯戦争に関してもあまりに無知。魔術と魔法の区別もつかず、頭の中でハリーポッターのような世界を想像してしまっている。
もうお気づきだろうがほのぼの路線。
聖杯戦争とか言いつつ多分これはカニファン時空です。
↓ある日の王とjk


「おはよう王様、綺礼は?」
「さあな。大方あの劇物を食しているのだろうよ」

休日なのだからと昼過ぎに目覚ましをとめて寝巻きで降りて行けば、そこには珍しくソファにどっかりと座り込んだ英雄王がいた。普段なら自分の好きなようにふらふらと出かけてしまうというのに。不思議に思いながらもおはようとあいさつをして、姿が見えない綺礼の姿を問えば、そんな答えが帰ってきた。
それにしても劇物とは酷い言われようだ、よっぽど王様はあの麻婆が苦手らしい。まああんなものを無知のまま無理やり口に突っ込まれればトラウマになるだろう。あのときの英雄王の顔は忘れられそうにない。