鈴の音





「いろいろあるけど。チャンミンにその話をするのは卑怯だと思う。」



言葉を捜しながら彼女は何かの方法を探している。

きっと、僕に優葉をあきらめさせる方法を。



「だから、私はひどい女なの。」



握っていた彼女の手のひらがしだいに汗ばんでいく。


「正直、自分の中ではどうしようもない思いを抱えていたわ。仕事でも私生活でも。」


やっと僕と視線を合わせた優葉。
その瞳はあふれんばかりの思いを溜めていた。


「そこに現れたチャンミンが・・・あまりにもキラキラしていて・・・ドキドキして・・・私は誘惑に負けたの。」


優葉の視線を逃さないようにつながれた手に力をこめる。



「そして・・・チャンミンを傷つけたの。」



とうとう優葉の瞳からしずくが流れていく。

一粒、また一粒と。



「・・・傷つけてください。」

「え・・・?」



下を向いた君が僕の言葉に再び顔を上げる。



「優葉がどういう状況なのかわかりました。」

「なら!」

「僕も・・僕も普通に恋人と常に一緒にいることができない身です。そして僕は・・・」



さっきまではかなくゆれていた優葉の瞳が急に力強く僕を諌める。

でも僕はそれを振り払うように彼女の方をつかんで僕のほうを向かせた。





「優葉を愛しています。・・・どうしようもなく。」



僕はこみ上げる感情を抑えきれなくなって、優葉の肩に額を当てる。


「チャンミン・・・」

「だから、僕とこのまま会うことを許してくれませんか?」

「だめよ。」


優葉は少しの余地も与えずに、僕にそう告げた。



「別に恋人としてじゃなくてもいいんです。」


「そんなの終わりが見えているわ。ダメ。」



優葉は厳しい口調でそう言い放つ。


でもその厳しさの奥、ずっと奥深くにはかなくゆれる、感情を見つけ、僕は顔を上げて、優葉を見つめた。



「それでは僕はどうすればいい?」



卑怯でもいいんだ。僕はそういい、彼女を見つめ続けた。

本当にどうでも良かった。


今の状況なんて。


ただ、彼女と一緒にいたい。触れていたい、同じ空間にいたいと思った。




「私をひどい女だと恨んで忘れれば良い。お願い憎んで・・・」

「それじゃあ、僕をもっと傷つけてください。」

「・・・そんなの・・・」



そういったきり、口を閉ざした優葉。

グラスに入ったお酒がいつもより早いペースであいていく。


その間、僕はグラスに一口もつけることなく、優葉の隣に座り、体温を感じていた。

触れてはいないけど、温かい僕の右肩。

そして、たまに触れ合う太ももが熱くなっていく。

やっぱり、この体温をまだ感じていたい。



この思いの果てに何があっても・・・





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