Bitter







けたたましくなる携帯のアラーム。



耳の次に目覚めたのは肌。

僕の肌に当たる、柔らかな暖かい感覚。

そのまま、僕は携帯に向かって手を伸ばそうと、腕に力を入れる。

でも、彼女を腕に抱いていることに気づき、一度きつく抱いてから、彼女の香りを鼻腔に焼き付けて、アラームを止めた。



「ん・・・今、何時。」


少し鼻にかかった優葉の声。

それがたまらなく胸をくすぐり、優葉に顔を埋めた。


「ごめんなさい。今、2時半です。仕事があるので帰らなくちゃ・・・」


こんな台詞、永遠に言いたくないけど、僕はしょうがなく優葉の中でつぶやく。


「2時!あ・・・」


優葉が突然、寝声からいつもの声に代わった。

僕が顔を上げると、優葉は僕を見たまま固まっていたが、すぐにベッドサイドに足を投げ出して、脱ぎ散らかった下着を着け始めた。


「仕事は?間に合う?」


もうすっかり、いつもの優葉の口調。


「大丈夫です。今から一度、宿舎に戻ってすぐ出れば間に合います。」

「そう。」

優葉は上の空の返事をすると、備え付けの時計に目をやり、いつもの君に姿を変えていく。


僕しょうがなく身支度を始める。


なんとなくきまづい空気の中、鏡の前で化粧を直している優葉。

さっきから、たまに鏡越しに僕に視線を落とす。


僕は、それに気づかないフリをして、背中を見つめてみる。

そして、ゆっくりと近づいていき後ろから優葉を抱きしめた。


「チャンミン・・・早く準備しなくていいの?」

「・・・はい。僕はもう終わりました。」

「それじゃ、私が準備できないよ。」


そういう優葉の腕を開放して、僕はお腹の部分を抱きしめ、優葉を後ろから包み込むように腰掛けた。


「ん・・・化粧がしにくい。」


鏡越しに優葉は僕をにらみつけて見るけれど、ぜんぜん怖くはないんだ。


「気にしないでください。僕が椅子だと思っていれば、できますよ。」


僕がそういうと、優葉は少しはにかみながら「・・・こんな贅沢な椅子」と言った。


その表情が愛らしくて、僕は腕に力をこめる。


化粧をしていない優葉はとても幼く見えて、とても愛らしい女性だった。

その優葉が鏡越しに、だんだんと美しい女性に代わっていく。


初めて、女性が化粧をしているのを面白いと感じた。


僕がジッと見つめていると、優葉は何度も気づかないそぶりをやめられなくて、噴出した。

そのたびに、僕は後ろから優葉をギュッと抱きしめた。




とても綺麗に化粧をされた君なのに、自分だけのものじゃなくなっていくような気がして、急に切なさが舞い降りる。



「はい。終わり。」

「もう、終わってしまったんですか?」

「うん。チャンミンも急いで出なくちゃ。お仕事でしょ?」

「・・・しょうがないですね。」




優葉はするりと僕の腕を抜けて、ジャケットを羽織った。


「さっ。いくよ。」


そういってドアの前で待ち構える優葉の手のひらを捕まえて、僕はギュッと握り締めた。


不満いっぱいの顔で。





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