First Kiss





初めての火曜日の夜。


優葉と僕は初めてあのバーに入った。
優葉は春色のジュースみたいなお酒を飲んで、頬を赤く染めていた。


アルコールより、そんな優葉が僕を饒舌にさせたんだ。
どんなアルコールよりも、優葉との時間は魅力的だった。
優葉は僕の知らない優葉だった。

青い空の下の優葉は、微笑を絶やさず、少しだけ幼く無邪気だった。

でも今の優葉は少し憂いに満ちた表情を浮かべる。


どちらの優葉も僕の心を高鳴らせたし、どちらの優葉も、僕は今すぐ抱きしめたくて仕方なかった。



「何か、ありましたか?」

「なぜ?」



質問を返されて、一瞬たじろいだ僕に優葉は表情を綻ばせた。

さっきまでの憂いはどこかにはじけ飛んでいってしまって、今度は僕の視線を縛り付けるように、見つめる。






「どうしたの?ぼーっとして?」

「あ、いえ。」

僕がそこで言葉を止めると、優葉は続きを知りたいと、じっと見つめ続けたまま。

僕は、しょうがなく最後まで続けた。


「なんだか、優葉さんってつかめないなって・・・」

「つかめない?」

「表情がすごく変わって、なんと言うか・・・」

また、少しずつ憂いを帯びる優葉。
そんな優葉の表情の変化に敏感に反応した僕は「気を悪くしたらすみません。」と言った。

一度、その表情で僕を許した後に、もう一度、微笑む優葉。


「平気よ。・・・ただ。まったく同じことを言われたことがあるんだ。」

「同じこと?」

「ええ。『君はつかみどころがない。』『何を考えているのかわからない』って。」

少し間をおいて「やっぱり私、ダメなのかな。」と続けた。


『その言葉を優葉に言ったのは男性だろうな』って瞬間的に感じたけど、僕はその言葉を口には出せず、心の中にそっとしまう。


「そういう意味じゃなくて・・・」

優葉はテーブルに頬杖をつき、その表情を僕から隠す。

「・・・ミステリアスで素敵ですよ。」


自分で言葉にした瞬間に耳に熱が帯びていくのを感じた。

僕の方を向いた優葉の表情からも僕の顔が染まっていることはわかった。


「そんな、若くてかっこいいチャンミンに言われたら照れるよ。」



「僕はウソは苦手だし・・・嫌いです。」


二人の間に瞬間的に訪れる沈黙。
はじめに視線をそらしたのは優葉だった。

「年上をからかっちゃダメだよ。」

優葉はまっすぐ前を向いたまま、そうつぶやくと、グラスに口をつける。
一口だけ、アルコールを口に含んだ後、優葉はグラスについた口紅をそっと親指でふき取った。

なぜだか、僕はこの時、引くことができなかったんだ。

このまま、冗談で終わらせたくない。

駆け引きなんて知らないし、駆け引きなんて僕にはできなかった。


「からかってませんし、僕がウソをつけないのは本当です。」


優葉は僕から逃げるように、ずっと視線を合わせてくれなかった。


「もう、知ってるよ・・・すぐ、顔に出るもんね。」

君はそういった後、今度は包み込むようにふんわりと微笑むと、やっとこちらを向いてくれる。

「チャンミンが連絡くれる前にテレビで見たよ。露骨に顔に出してるのを見て、笑っちゃったよ。」

「あ。短所であるってことは認識してます。」

「違う、違う。勘違いしないで。私は素直でとてもいいって思ったよ。うらやましいって。」


優葉が、ドンドン優しく微笑むもんだから、僕はもっといじけてみる。







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