「あ、山崎さん、手帳落としましたよ」
背後から声をかけられ山崎は足を止めた。拾ってくれた新人隊士の彼は手帳の間に挟んでいたある女の子の写真に一瞬目を丸くしたが「妹さんですか?可愛いですね」と手帳を拾って手渡してくれた。
「あ、そっか。君は最近入隊したから彼女達のことを知らないんだね」
「?」
「にしても、妹か〜……まぁそりゃ俺よりも一回りも下だしそう見えるよね」
「違うんですか?」新人隊士は聞いて失言した、と思った。山崎の写真の女の子を見る目を見れば違うことは明らかであった。
「違うよ」
山崎は写真の中で笑っている女の子に焦がれるように目を細める。この子は。言いかけてサァっと風が吹き抜けた。どこからか運ばれてきた桃の花が山崎の手元に落ちる。


「あ、見て見て山崎!桃の花が咲いてるよ!」
「本当だ。季節外れだね」
「知ってる山崎?桃の花言葉ってね、わたしはあなたの虜です、なんだって」
「へぇ」
「まるで、主4みたいだよね」



桃の花を凝視している山崎に新人隊士は不思議そうに「山崎さん……?」と声をかける。山崎は花びらを写真とともに優しく手帳に挟み込むとようやく顔を上げて話の続きをした。

「この子は主4ちゃんって言ってね、ずっと俺を虜にしている女の子さ」


「主4はねぇ、きっと山崎が考えてるよりずっと前から、主4自身も気付いてないうちから、ずっと山崎の虜だったんだよ!」


目を閉じればそんな風に言って笑っている彼女の姿が今も離れない。



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