僕は透明人間さ
12.7.25

私の名前を呼ぶあの子は、私の目の前にはいない。
「ももせ」
舌っ足らずにこちらの名前をはにかみながらよんでくるあの子は、記憶の中でも鮮やかに思い出せる。
「ももせ、あのね」
嬉しそうに今日何があった、昨日こんなことをしたと近況を伝えてくれる。無条件に全てをさらけ出してくれる。
「ももせ――すき」
私も大好きだよ。ゆり、ゆりあ。私の大切な大切な恋人。

それから、

風が、彼女の姿をさらって消してしまう。
どうして、と。なぜ、と。問い掛けても答えはかえらない。
ゆりあ、ゆりあ。
ああ、泣き虫でこわがりなあの子を早く探してあげないと、大丈夫だと伝えてあげないと。
早く見つけださないと、私が、くるって、しまう、のに。








「…百合さん?」
は、と目が覚めると一番に飛び込む青の色。
「リオン、ちゃん」
「どうしました?  夜更かしでもしましたか?」
「ううん、そうじゃないんだ」
「?  百合さんなんだか口調が、」
ぎゅ
「え、え、えぇ?」
言葉にならない声を漏らしつづけるリオンちゃんに抱き着く。軽いハグ程度のそれ。
起きてはじめて見た彼女が、ゆりあじゃなくてリオンちゃんだったから目が覚めた。いつものオネェ口調が抜けてしまったのは、夢にゆりあがでてきたからだと心の中で答える。――リオンちゃんに聞こえるはずもないのに。
「もうちょっと、このままで」
「……はい」
我が儘な大人にお願いをされても、それをしかと受け止めるリオンちゃんがいて。ばかだなぁ、つけこまれちゃうよ、と口に出さずに言う。

「百合さん。今日のごはんは泰劉さんが作ったんですよ」
「……」
「泰劉さんの手料理はおいしいですからね!  期待大ですよ!!」
「……」
「だから、はやく元気になって、食べましょうね」
「…………そうだね」



ゆりあ、私、居場所ができたんだよ。
早く此処を紹介して、貴女と一緒に此処にいたい。
ねぇ、あなたは今どこにいるの?

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