].星の宿り木


 緩やかな傾斜の上を軽やかに駆け出したマリアの、長い赤毛が風に吹かれる。一瞬、視界が塞がって足元が傾いた。爪先が、ふっと宙を彷徨う。倒れる、と目を瞑った瞬間に温かい手が腕を掴んで―――、どちらからともなくキスを交わし、二人は顔を見合わせて笑った。

―――ジルという青年がいて、古書屋を営んでいる。
―――星の色をした髪に、セピア色の眸。

 その風はマリア達のいた屋根を駆け抜けると、古書屋の脇を通り抜け、トウミツ祭の音楽の準備が始まっている商店街を横目に、するすると駆けていく。そして赤い屋根の青果店の二階、細く開けられた窓から一つの部屋へ入り込んで、ベッドの傍に置いた机の上で閉じてあった一冊のノートをぱらぱらと捲った。

―――優しいけれど寂しがりで、星の声に耳を塞げない。
―――星読師をしていて、星の天井のある部屋で暮らす不思議な人。


―――そして彼の帰る、カリヨンの街には、



―――彼のことを好きな女の子がいて、その帰りを待っている。




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