第四章


吐き出した言葉がそのまま返されてくるような感覚に、また声をなくしてしまう。魔法は、未知の部分が多すぎる。だから怖い。けれど私は、まだ。
「あなたにはまだ、知らないことがたくさんある。魔法は確かに僕たちの手にありながら人智を超えた、恐るべきものです。でも、それだけではない」
思考を補うように、彼はそう言って手のひらを広げた。
「……あなただって、十分に知っているはずです。魔法の楽しさや、喜びを」
あ、と言う間もなく、その手から飴玉が三つ転げ落ちる。それは古い木製のテーブルに触れて、こつんと音を立てた。同時に、カランカランとベルが鳴り響く。予鈴だ。
「さて、行かなくてはなりませんね。急がないと遅刻しますよ」
「え、あの……」
「はい、何ですか?」
「……え」
さっと話を切り上げて立ち上がった彼に、思わず呼び止めるような声を上げてしまった。だが、改めてどうしたと聞かれると何も思い浮かばない。
「何でも、ないです」
「そうですか?」
結局、長く引き止めているわけにもいかずに掴んだ空気を離した。彼はそれを気にした様子はなく、外していた眼鏡をかけ直し、鞄を抱えて椅子を戻す。そして振り返って、いつものように言った。
「では、会えればまた放課後に」
その後ろ姿があまりにも変わりないから、ドアの閉まる音が響いた後で、私は先ほどまでの会話が本当に交わされたものだったのかさえ分からなくなりそうになる。けれど、確かにあったのだ。


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