第四章


返答は、ろくに必要とされていないようだった。何度か問いかけに近い言葉も発されたが、どれに対しても答える間は与えられなかったので、口を閉ざす。否、あったとしても何も言えなかったかもしれない。だから、きっとそのまま。今のように黙って、頭の中で言われたことをぐるぐると反芻するしかできなかっただろう。彼は一頻り話したあと、また私の言葉を待たずに続けた。
「魔法は、確かに未知の力です。でも、すべてが摩訶不思議で成り立っているわけではない。そこには探せば法則や規律がいくつもあって、そして人は何百年も、それを知ろうともせずに魔法を使ってきたわけではありません」
「……」
「解き明かされていることだって、たくさんあるのです。未知と同じくらいに」
「そう……なんですか」
「……ねえ、エレンさん。学院がなぜ、一年生のカリキュラムに退屈な講義と長い解説と面倒な板書を繰り返すばかりの授業を詰め込んでいるか、分かりますか?」
乾いた唇を開いて意味もないような言葉で上げた声は、掠れていた。それを耳にして、投げかけられる声音が少し柔らかくなる。完全な問いかけに変わった内容に顔を上げれば、彼はいつもと変わりのない、大人しげな笑みを浮かべた。その様子にゆっくりと落ち着きを取り戻して、私は首を横に振る。彼はそれに、静かに頷いた。
「知らないことは、恐怖に繋がるからです」
「……え?」
「どこかで聞いたような言葉ですね、エレンさん?未知のものは誰だって怖い。知らないことは、怖いのです。だから、実習的な授業に入る前に、十分な知識を身につけようとする」


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