第四章


「……あなたの望みは、もうすぐ叶いそうなのですね」
「はい」
「知りたかったことは知り得て、目的は果たされる。魔法を使う職業に就きたいわけでもないのなら、確かにこの学院で過ごす意味なんてなくなってしまうのかもしれない。悪い意味ではなく」
「……はい」
「卒業よりも、何よりも。明確な目的が達成されるのだから、当然かもしれませんね」
怒るか、軽蔑されるか。そんな展開を覚悟していた私の頭の上を過ぎる声は、沈んでこそいたがいつもの温度を失ってはいなかった。最大限譲歩された言葉に、瞼を伏せる。伝わってはいるのだ。私の意思は、理解されている。ただ、それでも彼の立場からすれば受け入れにくい話だろう。どこか許したのではなく諦めたような言葉に、落胆に似た感情を憶えることがとても心苦しい。そんなふうに感じる権利はない。自分から言い出したことなのだ、この場で見切りをつけられてもそれこそ当然というものだろう。そう思って深く息を吸ったとき、しばし言葉を探すように黙っていた彼が小さく、でも、と切り出した。
「でも、これだけは聞いてください。エレンさん、あなたは素質こそ高いですが、知識はまだ一般の学生です。成績のいい、この学院の一年生に過ぎません」
「それは……」
「あなたは、魔法が未知のものだから怖いと。だから魔法を多く扱いたくないというのでしょう?でも、きちんとした研究がされて、解明されているものだってある。代償が不要だと立証されている魔法も、世の中にはたくさんあります」
「……!」
「知っていましたか。或いはいくつ、知っていますか。それほど多くはないはずです。この十日ほど、傍で教えてみて確信しています。あなたはたくさんの魔法を知っているしそれを扱う実力も兼ね備えているけれど、魔法の原理や成り立ち、法則といった基礎の知識は特別豊富でもない。知らなくても、素質が高いから自然と扱えてきたのでしょう」


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