つづくことば189
2012/11/07 23:06

つづくことば189

次の言葉の続きを考えましょう。
詩や小説のタイトルにするのも可

過去に書いた小説のキャラたちでいきます。括弧内は小説タイトル。

*はじめての言葉は(さあ、魔法の話をしよう)
「魔法学の、レトー先生」
 口にした瞬間、わずかな沈黙が場を占めた。クラスメイトの少女たちの、虚を突かれたような表情が並んでいる。悲鳴を上げるほどの衝撃でもないが同意して盛り上がれる返答でもない、つまるところ本当に想定外の角度、ということがありありと見て取れる顔だ。
「……まあ、その。ちょっと、急に聞かれて何となく思い浮かんだだけ」
 ―――尊敬する人は、誰?
 他愛ない話の中から零れ落ちたその問いかけを思い出して、エレンは一人、皆の視線から逃れるように瞬きをしてそう答えた。

*グミで手を打て(エンター)
 そう言ったら、彼女は笑顔で僕の左頬をつねった。利き手だ、見た目より力が強い。不思議だな、人間はどうして力の加減を知るんだろう。本当はこうして強く出ることのほうが簡単なはずなのに、いつも自転車の上で肩にかけられる手や、寒い朝にマフラーを貸してくれる手はとても優しい。
「何か言うことは」
「ごめんなさい」
 そんなことを考えながら、謝れば。仕方ないわね、とため息をついて、吹っ切れたように彼女は苦笑した。
 寒い朝だ。手は悴むばかり。それでもひとまず、僕は携帯電話の振動に驚いてブロックに突っ込み壊れてしまった自転車を直すし、彼女は僕の携帯電話のやたらと煩い振動を、慣れた手つきで何とかしてくれるようだ。

*夢の中なら死ねる(翅)
「だって、貴方がいるもの」
 ぽつりと、呟かれた言葉に空っぽの身体は水温を上げた。凍えるものも燃えるものも抱えていないはずなのに、器を持たない感情が目まぐるしく温度を変えて巡る。どうしてそんなことを言うのだろう、どう聞けというのだろう。
「夢じゃ、ないでしょ」
答える言葉が多すぎて、それしか口に出すことができなかった。
 いっそここが、痛みのない夢の中なら。僕はとっくに君を閉じ込めて、ナイトメアになり果てている。それをさせないのもまた、僕を思い描いた君なのに。

*目を開けなさい、(造花の夢)
 目を覚ましたときに、そう声をかけるのが癖になった。袖を捲って水槽の中、浅い水に沈んだ肩を揺らす。簡単な魔術で一定の温さを保ち続ける水槽は、薄紫の髪に満たされて実際以上に温かく見えた。ひたりと手首まで這った水に眉をひそめて、もう一度肩を揺する。蝋を伸ばしたように薄い瞼が開いて、緑青の色が覗いた。
 目を開けなさい、と。外から呼ぶものがないとこのまま目覚めないのではないかというように眠り続ける人魚へ、目覚めた後で別段かける言葉はない。かけたとして、彼女は何も答えない。ただ、水に浸された手でその肌と触れ合う一瞬だけ、神経の先を溶かすような交信がある。その非科学的で曖昧な感覚だけが、日々、彼女の生を淡々と告げるのだ。

*犯罪でしょ?(公園の悪魔)
 不法侵入、詐欺、誘拐。ありとあらゆる悪事を、スキップでもするように私の日常の上で働く。人生の妨害だ、まるで。こんな運命、求めていない。
「……最高に、不運だわ」
「何が?」
「何でもないはずの日が、貴方に会うと一大イベントになっちゃう」
「わお、熱烈」
「悪い意味で、ね」
絶対、求めていないのだけれど。
 いい性格になっちゃって、と皮肉っぽく言った声に振り向けば、何だか随分嬉しそうな顔がそこにあって、はたと瞬きをしてしまう。少しの沈黙の後にはまたいつものにやり笑いが浮かんだけれど、ああ何というか、それは犯罪だ。動揺しすぎて、見逃すしか選択がない。


つづくことば189
作者:さかなさん

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