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次の日から、わたしとブンちゃんの間には距離が出来始めた。最初は挨拶も交わしてたのに、次第に言葉を交わすこともなくなった。もちろん一緒に行動することもない。なにも知らない人たちはわたしたちが喧嘩してると思ってるのか、たまに茶化したり心配したり。それも数日経つと触れてはいけない話題とされたのかなにもなくなった。


「…やっとなくなった」


わたしとブンちゃんが全く話さなくなってから数日。わたしの下駄箱に入れられていた罵倒のメモはようやく消え去った。きっと彼女たちは満足したのだろう。まーくんとだって最低限の会話しかしなくなったのだ。邪魔者は消えたようなものだ。わたしはため息をつきながら靴を履き替えた。


「先輩が言ってたからマジだって!」

「えー!じゃああたし告っちゃおっかなー!」


きゃあきゃあと如何にも年頃の女の子たちの雰囲気だ。とぼんやり思った。そんな雰囲気すらわたしには遠いものだ。ブンちゃんに半ば依存していたわたしは1つ向こうにいる女の子たちみたいに年相応に騒げる女友達は居ない。クラスメイトと仲が良くないわけでもないが、それでも当たり障りのない距離感。グループになって行動するといった学生特有の考えはわたしにはないし、そういうふうに常日頃行動を共にする女友達なんていない。


「でも最近元気ないよね」

「やっぱその先輩と付き合ってたって噂ほんとなのかな」

「だとしたら納得だけどショック〜」

「丸井先輩狙ってたんだけどなー」


丸井、という単語に帰ろうと動かした足が止まった。それは間違いなくブンちゃんを指していた。それまで聞き流していた話に、思わず聞き耳をたててしまう。


「けどさ、別れたんでしょ?最近女子と居るところ見ないし」

「でもそれからだよね、丸井先輩が元気ないの」

「確かに。その先輩のことまだ好きなのかな」

「じゃあ告っても無駄じゃん」


……ブンちゃんが誰と付き合ってたって?全く聞いたことのない話題に思考はぐるぐると巡る。彼女たちの話に出てくるブンちゃんは、まるで別人ではないかと疑うほどわたしの知るブンちゃんとは違った。


「そういえばこの間バスケ部の先輩から聞いたけど、その先輩と別れる前まで丸井先輩って好きなひと居るからって断ってたらしいよ」

「まじで!?」

「なんか先輩の友達が別れたって噂が出る少し前に告ったんだけどその好きなひと待たせてるからってすぐ行っちゃったんだって〜」


全然、話が見えない。そもそもいつの話かもわたしには分からないけど、それにしたってブンちゃんが女の子と付き合ってたのなんて一言もブンちゃんの口から聞いたことない。そこでブンちゃんに言われた言葉が脳裏をよぎる。


「実加は俺に隠し事しねえって思ってた」


そして今の彼女たちの話。…ブンちゃんだって隠し事、してる。あれだけ一緒に居たのにブンちゃんに好きな子が居ることも、付き合ってる女の子が居たのも、なにも聞いてなかった。そう思うとそれまで沈んでいた気持ちなんてすっ飛んで、わたしの中には怒りにも似た感情が芽生えていた。


「……仁王には言えるのに、俺には言えないんだ」


ばかやろう。まともに話したこともない女の子たちには言えて、わたしには言えないことがあるくせに。どの口が言うんだ。そう思ったわたしは帰路を辿らず、違う方向へ足を進めていた。







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