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そしてそれは唐突だった。


「……え?」


バシャン、と水の音。ガコン、とばけつの落ちた音。遠退く下品な女の子たちの笑い声。冷たい感触。視界に入る、したたり落ちる雫。


「……」


ここに来てか、というのが正直な感想だった。いつか、こういうことはされるかもしれない。そんなのはどこかで覚悟していた。だけど告白の件もあってかこれだけ過ごして何もなかったからこの先もないだろう、なんて油断もしてしまっていた。


「……きれいな水だと良いけど」


キーンコーン……と鳴り響くチャイム。さすがにこんなびしょ濡れなままでは人の目に当たりたくない。幸いわたしの携帯は防水だしポケットに入ってたからあとで使えるだろう。それより今は如何に人の目を盗んで如何に人のいない場所へ行けるかだ。空き教室はあったかな、なんて冷静に頭は回転する。そして足音が消えて、人の声も遠退いてから、わたしは1度制服を絞って靴下を脱いで、それから一歩出た。


「まさかと思ったが、」

「え」

「実加じゃとはなあ」


さすがにすぐには気づかれないと思ったのに。よりによってそこにいたのはまーくんだった。血の気が引くのが分かる。


「ブンちゃんには言いやせんよ」

「へ、」

「顔に出ちょるよ、心配かけたくないって」

「……、」


お見通しだった。その通りだった。わたしが狙われるとしたらブンちゃんに好意を寄せているひとたちがするとしか考えられない。だったらブンちゃんにこのことがバレたとき、心配をかけて改善策として、もしわたしとの距離をとられたりしたら、と思うとこわかった。突然距離が出来てしまうのがこわかった。そして何よりブンちゃんがどんな行動に出るかが、こわかった。怒ったブンちゃんはそうそう見ない。だからこそ何が起きるかわからない。もしわたしのせいで彼に良からぬことが起きたら、と思っただけで気持ちが悪くなる。


「屋上、行くか?」

「え?」

「上手い言い訳も出来んまま誰かのところへ行くのはまずいじゃろ」

「そ、それはそうだけど」

「今日は晴れじゃし屋上は人も居らん。絶好の場所じゃろ」

「……」

「貸し、じゃ」

「え」

「冗談じゃよ、ほれ行くぞ」


ぐい、とわたしのびちょびちょの手を引いてまーくんは半ば強引にわたしを屋上へ連れ出した。







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