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「あれ」

「あ、赤也くんだ」


きょろきょろと教室を見回すくせっけの男の子。そこまで親しいわけではないけどもブンちゃんの後輩だから知っている。そして彼もわたしを知っている。


「あ、実加先輩、どーも」


わたしの周りをきょろきょろ見る彼が誰をお探しかなんてすぐに察しがついた。だけどお探しのひとは数分前に空腹を訴えて購買へと出向いたからきっと両手いっぱいにパンを抱えて帰ってくるだろう。


「ブンちゃんなら購買行ったよ」

「まじっすか」

「急用なら呼び戻そうか?」

「あ、いやいや別にいいっすよ、」


わたしからの着信は必ず出てくれるブンちゃん。というのもわたしの着信音だけ何故か違う。テニス部レギュラー陣のレギュラー陣ので統一されているけど。わたしだけ何故かオンリーワンな状態。そうそう電話を掛けることはないけど。


「まあもう少しで帰ってくると思うけど」

「そうなんすか?」

「うん」

「ほんとになんでも分かるんすね」

「長い付き合いだからね」

「すげー」


心の底から感心したらしい赤也くんの目が心なしかきらきらしている。そんなに目を輝かせるようなことではない……はず。とそこへブンちゃんが戻ってきた。やっぱり両手いっぱいにパンを抱えている。まさかと思ったけど今日はやけにお腹がすく日らしい。


「あ?赤也じゃん」

「あ、先輩」

「ブンちゃんおかえりー」

「おー」


ブンちゃんは一瞬眉間にシワを寄せたけどすぐになんでもなかったかのように座ってパンをひとつ手に取った。


「ブンちゃんに用事なんだって」

「あと2分で授業始まるぜ?」

「げっ…、じゃあ後でまた話します!んじゃ!」

「ばいばーい」


しゅばっと自分の教室へ戻っていった赤也くんを尻目にブンちゃんはあれよあれよとパンを胃へおさめていく。


「急用じゃなかったみたいだよ」

「ふーん」

「急用だったらブンちゃんに電話してたんだけどね」

「……」

「……」


はて。なぜかブンちゃんはご機嫌斜めらしい。直接口には出さないけどなんとなく、そう思った。わたしは黙々と時間ギリギリまでパンを食べるブンちゃんを口をつぐんだまま見守った。それにしてもなにが気にくわなかったのだろう。







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